データから見える「いじめ」発見の難しさ
「平成29年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」では,「いじめ発見のきっかけ」についても詳細なデータが公表されている。
公立小中学校では,いじめはだれがどのように発見しているのか。
「学校の教職員」とそれ以外(子ども自身,保護者など)の比率は,
公立小学校で約7:3,公立中学校では55:45となっている。
担任教師が発見した割合(全体に占める)は,公立小学校が11.2%,公立中学校は10.3%。
アンケート等でわかった割合は,公立小学校が57%,公立中学校が38%。
本人からの訴えでわかった割合は,公立小学校が16.2%,公立中学校が24.0%。
本人の保護者からの訴えでわかった割合は,公立小学校が9.3%,公立中学校が13.7%。
このことからわかる「いじめ」の特徴は,9割が教員の見ていないところで行われる,ということである。
データから少々意外な印象を受けるのは,担任教師といつも一緒に過ごしている小学校でも,担任が気づかないように「いじめ」が行われているということである。ここでは「小学校担任はいじめに気づけない」という意地悪な解釈はやめておこう。
アンケートをすれば「垂れ込み」がたくさん集まるのが小学校。
本人が申し出てくれる可能性は,小中いずれも低いが,まだ中学生の方がやや勇気が持てているか,状況がひどくなって申し出がある,といったところだろうか。
もう一つ意外だったのは,いじめを受けた児童生徒がだれに相談したか(複数回答可)というデータである。
「友人に相談した」と答えたのは,公立小学校では5.5%,公立中学校では9.6%しかいなかった。
いじめを受けた児童生徒は,集団から孤立していることも大きな特徴と言える。
「担任に相談した」と答えたのは,公立小学校では81.4%,公立中学校では74.6%だった。
私も長年教員をやっていて,「教師としか会話ができない子ども」をたくさん見てきた。「これでいじめを受けていないとしたら,ほとんど集団とはかかわりをもたずに生活しているという意味になる」という心配の仕方をしたこともある。
スクールカウンセラー等の相談員に相談した児童生徒は,公立小学校では1.3%,公立中学校では4.0%。
学校以外の相談機関に相談した児童生徒は,公立小学校では0.4%,公立中学校では1.1%にすぎない。
日本では,いかに「学校の先生」の役割が大きく,「教員以外」の人材が機能していないかがわかる。
費用対効果を考えて,予算を大幅にカットするという方法もあろうが,日本では「やがて機能する」という神話を信じる人が多いので,状況は変わらないだろう。もちろん,臨床心理士の人の仕事が急になるなるのも気の毒なことである。「いじめ防止に役立っている」というデータをつくれば,何とかなるだろう。だが,いじめの防止に対しても,教員の果たす役割が非常に大きいことは,次に紹介するデータからもわかってしまう。
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