東京都教育委員会では,都立高校入試につかわれる調査書(内申書)の評定の一覧を公開している。
ある区には中学校が2校しかないから,各年度の3年生の評定分布がわかってしまう仕組みになっているが,苦情などはないのだろうか。
次のグラフは,平成30年度入試に使われたある2校の英語の評定割合を比較したものである。

A校の英語で「5(十分満足のうち,特に優れた者)」の割合は全都的に見ても高く,31.6%である(全都の平均は15.0%)。
A校の評定が「甘い」わけではなく,A校にはB校と比べて優秀な生徒が集まっている,という「前提」で入試を行わないと,「大変なこと」になる。もしもA校の評定が「甘い」=「適切ではない」ことが証明されると,A校出身で都立高校を受験した生徒の入試得点が誤っていたことになり,合否判定をやり直さなければならないからである。
では,すべての学校が「適切な評価・評定を行っていること」は証明できるのか?
東京都教育委員会では,中学校の評定割合で「特異な評定状況」を示している教科のある学校と,その教科を示している。
たとえば「すべての教科で1の評定がついていない学校」が,港区に4校(8校中),文京区に6校(7校中),世田谷区に8校(28校中),八王子市に11校(35校中)ある。
「5と4の評定の割合が80%以上の教科がある学校」が,千代田区に美術で1校(2校中),文京区に音楽で1校(7校中)ある。
都は,「特異な評定状況」が「適切な評定状況」であるかどうかの調査はおそらく行っていない。
「適切な評定であること」は,「成績一覧表」を提出した時点で,校長印によって確認している。
それなのに,「特異な評定状況」を公開しているのはなぜか。
「評定割合の一覧表」を見ると,「明らかに怪しい」ことがわかる学校(教科)がすぐに見つかる。
冒頭のA校とB校は,どの教科でも英語のような分布を示しているから,A校には優秀な生徒の割合が特に高い,ということになるのだろうか。
たとえば,美術の評定分布を比較してみると,次のようになる。
英語の成績と美術の成績に相関関係があるかどうかは知らないが,この美術の成績はとても怪しい。

中学校や高校,そして教育委員会は,このような怪しげな「評価」をもとにして,入試の「合否判定」をしているのである。その精神的な負担たるや,もはや「働き方改革」などといったレベルでは済ませられないものがある,という声を上げられるのはだれなのか。区議会議員の方の中には,実際に動いている人がいるが,エビデンスをもっていないのが痛みである。
上記の2校の美術の評価・評定のもとになった資料だけ,取りあえず調査してみてはどうか。
私はA校の美術教師の指導力の高さが証明されることを望んでいる。優れた指導法を,ぜひ全都に広めることに尽力してほしい。
ただ,ある教員がやっていた過去の評価・評定がすべて誤っていたとしたら,評価・評定を判定材料に使う過去の「入試」すべてが誤った判定をしていたことになるから,恐ろしいことである。
多くの関係者は,「誤っていた事実がわかってしまう」ことを避けたい。
しかし,学校やそこでの評価・評定はだれのためにあるものなのか。
学校は何のためにあるのか。
よく考えてほしい。




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