若い先生が増えると,子どもや管理職の悩みも増える
次の図は,東京都の小学校教員数の推移を示している。
男女比はおおよそ1:2であるのが小学校の特徴である。
学校によっては,男女比が半々くらいのところがあったり,男性教員がごくわずかしかいないところもある。
小学校の管理職の悩みの一つに,女性教員がご懐妊され,産休に入ることにある。
日本全体から見れば,とても歓迎すべきことだが,こと人事管理という点や指導の一貫性という観点から言うと,とにかく人を探してこなければならない,しかし,適材がなかなか見つからない,という点で,管理職にとっては非常に頭の痛いところである。学級担任がほとんどすべてを仕切る小学校教育のシステムを変えない限り,この難問の解決は難しい。
ある地域では,住民(保護者)と学校(行政)との対立の図式を生んだりもする。
何と,教員がほぼ男性だけで,若い女性がいない,という異常な小学校が存在するのは,教育委員会事務局が住民の要望を受け入れているからである。
希望しないへき地の学校に赴任すると,異動前は予定はしていなかった妊活に取り組む人がいるというのだ。
少子化が止まらない日本で,もっと寛容にできないのか,と疑問に思われる方も多いかもしれないが,こと自分の子どもの担任がコロコロ変わり(小学校の6年間で,ほとんど毎年,担任が産休に入っていくという学級もあったらしい),学級が落ち着かなかったり荒れてしまったりいじめが蔓延するようになると,黙っていられなくなり,果ては「産休に入りそうな女性教員を担任にすえた管理職の責任」がクローズアップされてしまう。
私が知っている管理職にも,この理不尽な責任追及に辟易してしまっている人が少なくない(中学校ですら,そういう責任が問われてくる)。
いっそのこと,子どもが減って空き教室が増えている小学校内に託児所を設置してしまうという政策もありかと思われるが,「家でゆっくり育児したい」という教員の希望ももちろん重視すべきであろう。
行政として最も力を入れるべきなのは「自宅研修システム」で,できれば一定の業務も在宅でできるような仕組みをつくるべきではないだろうか。
育児をしたことがある人はわかるだろうが,自分の子どもの育児は基本的に24時間「営業」である。
そんなゆとりはない,そもそも育児「休暇」をとっているんだ,という当たり前の声に対して,
「学校の危機」「子どもの危機」「保護者の危機」を背景に何かしらの手を打たないと,それこそ小学校の学校経営が「成立しない」ほど,苦境に立たされるところが続出するおそれがある。
同僚間の人間関係がよくない小学校では,さらに関係が悪化し,産休→異動→産休→異動というパターンになりかねない。
「自分の子どもと,担任をしていた子どもたちと,どっちが大事なの?」なんて質問はもちろん論外だが,教員でなくても,「育児から解放されたい」という欲求がわき起こるときがかならずあることも念頭においておきたい。
男性教員で産休をとっている人がどれいくらいいるかは,よくわからない。
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