「主体的・対話的で深い学び」に対する「浅い理解」の批判を批判する
「主体的・対話的で深い学び」という言葉が,報道や雑誌,研究発表の場でよく使われるようになったからか,教育現場でも「身構え」が始まっている。
今回の教育改革は,高校の教育改革を全面的に進めていくためのものなので,小中にとっては「そんなこと,ずっと前からやってますよ」といったレベルのものになっている。
地理総合や歴史総合,公共といった新しい動きまで視野に入っている小中の先生は,まだ少数派だろう。
それでも何でも批判しないと気がすまない人たちから,そんなレベルの話をしても,だれも相手にしてくれないという文句もちらほら聞こえてきている。
批判というのは怖いもので,自分自身の実践レベルがわかってしまうのだ。
「対話=話し合い」だと思っている人がいるが,それでは「深い学び」には到達できない。
ナントカ「的」という独特な言い回しは,ナントカとはイコールではないことをまずは念頭に入れておくべきである。
以下は,ワーキンググループから5月に出された資料からの抜粋である。
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【深い学び】
習得・活用・探究の見通しの中で、教科等の特質に応じた見方や考え方を働かせて思考・判断・表現し、学習内容の深い理解につなげる「深い学び」が実現できているか。
【対話的な学び】
子供同士の協働、教師や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、自らの考えを広げ深める「対話的な学び」が実現できているか。
【主体的な学び】
学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連づけながら、見通しを持って粘り強く取組み、自らの学習活動を振り返って次につなげる「主体的な学び」が実現できているか。
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「深い学び」のキーワードは「見方・考え方」である。
「deeper understanding」につなげられる思考が求められているのであり,教科等の特質に応じた「見方・考え方」をより重視した学習活動の展開が求められる。
「対話的な学び」のキーワードは「協働,対話,先哲の考え方を手がかりにすること」「自らの考えを広げ深める」ことで,ここでも「考えを深める」という視点が求められている。
「主体的な学び」で私が最も重要なキーワードとして考えているのは「振り返り」と「次につなげる」である。「キャリア形成」「見通し」「粘り強く」も重要なキーワードである。
指導計画上,ただ教科書の配列に従って授業が進む,ということではなく,「このこととつながっている~を次に行おう」「ここで身につけた~を次につなげていこう」とする主体的な態度が子どもに求められる。
場合によっては,カリキュラム編成を見直すことも必要になるだろう。それは,子どもの主体性がよりよく発揮できるようにするための配慮である。
小学校の教師はうらやましい。独自のカリキュラムマネジメントを発揮することができる。
学校の教育課程編成に,一人一人の教師がより積極的にかかわっていくことが求められていくだろう。
後ろ向きの教師のせいで置いてきぼりにされ,ただひたすらドリルをやらされてしまうような子どもが増えないようにしたいものである。
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