「教科横断的な資質・能力を育てる・・・・」というタイトルの本には,何が書いてあることが必要か?
とてもひどい本を買ってしまった。
その本のタイトルに示された,教科横断的な資質・能力について論じていることを信じて購入してしまったが,それについて論じていないばかりでなく,文科省が事例を示して検討していた「教科横断的な学習」の事例もほとんど掲載されていない。
前半約40頁は,アクティブ・ラーニングの概説。残りの約60頁が,国語×2,社会×2,理科×2,音楽×1,保健体育×1,美術×1,技術・家庭×1(家庭科),英語の実践例が掲載されている。
すでに現行の学習指導要領にも取り入れられている「教科横断的な課題」とは,法教育等,情報教育,科学技術教育,環境教育,キャリア教育,食育,性教育,安全教育のことである。ここに防災教育や金融教育,主権者教育,海洋教育などが含まれてくるわけだが,「失敗しない薄焼き卵作りの工夫点」を探究することが,果たして中学校の教科横断的なアクティブ・ラーニングの課題として適切なのだろうか。家庭科の調理実習を理科の実験風に行うというのでもないらしい。
前半のアクティブ・ラーニングの説明も,次期学習指導要領で重視される「主体的,対話的で深い学び」のうち,最も重要な「深い学び」・・・習得・活用・探究の見通しの中で,教科等の特質に応じた見方や考え方を働かせて思考・判断・表現し,学習内容の深い理解につなげる「深い学び」を実現させる授業の提案に結びつけることができる記述が不足しているように思える。
活動があり,ふり返りの時間が確保されているが,「深い学び」がなければ,道徳や総合的な学習の時間と大差がないと言える。
教科横断的な資質・能力とは何か。それを育てるために,まずは各教科の特質に応じた見方や考え方を示し,どの部分がどの程度,他の教科と重なり,関連し合っているから,どのような活動を行えば,資質・能力を向上させることができるのか。こうしたことが論じられていないのならば,この本のタイトルは不適切なものと言わざるを得ない。
信頼できる出版社だから買ってしまったのだが,騙されたという印象しか残らない。
「アクティブ・ラーニング」バブルのせいで,他にもひどい本に祟られていたが,この本は紛れもなく,ぶっちぎりのワースト1である。
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