コンテンツ・ベースかコンピテンシー・ベースか
以前にもご紹介したかもしれませんが,世界の教育改革の潮流は,
コンテンツ・ベースからコンピテンシー・ベースへの転換です。
日本の場合,「学習内容は削減しない」ことを前文科大臣が公言してしまったので,
その両方を・・・というより,コンピテンシーを向上させて,コンテンツへの理解を深めるという「欲張り」目標が設定されてしまいました。
そのためには,アクティブ・ラーニングを導入しなければ・・・という話になっているのですが,
一見してアクティブ・ラーニングっぽい学習というのは,コンテンツの質と量が低く「浅い」ことしかしていないから,40人いる教室でもできるわけで,中学校や高校だと,生半可なことでは「深い理解」などさせられないわけです。
アクティブ・ラーニングの要素として最も重要な「主体的な学習であること」についてですが,
「教えあって協力してやりない」という指示も実は全く生徒の主体性を無視したもので,
「先生,あなたがもっと詳しく教えて下さい」というのも子どもの願望に基づく主体的な要求であると言えます。
重要な情報,必要な情報をしっかりと目で見て,耳で聞いて,書きながら理解する,
こうした態度を「受け身」としか捉えられず,「主体的に聞く行為」ととらえられない人がいい加減な「理論」で子どもを教育すると,
人の話を聞かない,メモしない,自分がやりたいことだけしかできない,そういう人間が育っていくのです。
教科書に書いてあるレベルのことが理解できて,はい,その先は・・・・
というところで,はじめて子どもの主体性が発揮できるアクティブ・ラーニングが始まるのです。
大学レベルで言えば,教師がある分野への興味関心をかき立ててくれて,
はい,あとは自分で本を読んで勉強し,優れたレポートが出せれば出席しなくても単位をくれた昔のスタイルが最も主体性を重んじた教育スタイルだったわけです。
ゼミのスタイルもそれに近いですが,テーマが限られてしまうと学生の本当の意味での「主体性」は発揮できません。人数が少ないので「協働的」な活動にはなるのでしょうが,能力が高くないと「深い学習」まではいかないおそれがあります。
ある中学校の総合的な学習の時間の発表会の映像が手元にありますが,ゼミで浅い学習しかできていないゲストの大学生が驚いていましたね。
テーマごとの担当の先生に引率され,さまざまな「専門家」のところにいって聞き取り調査した結果から自分たちの考えをまとめ,練りに練ってから発表していたので,ネットでちょこまかとまとめたようなレポートとは全く質が違います。
まずは総合的な学習の時間の学習がアクティブ・ラーニングになっていなければお話にならないでしょう。
気をつけなければならないのは,コンテンツの充実なくして,学習をした達成感は得られにくいものです。
「深い学習」を可能にするコンピテンシーの研究と,コンテンツの質との相関関係をはかるような研究が必要になってくるのでしょう。
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