なぜ子どもは「理解した」つもりのことを次の日には忘れているのか?
公開授業で研究協議をするのは,当日に決まっています。
私は,できれば次の日か,一週間くらい後にもう一度子どもの様子を見てから,授業の評価をしたいという立場です。
キーワードは,「定着」です。
話し合い活動や問題解決的な学習によって,さまざまな能力を習得させたい気持ちは分かりますが,
実は子どもの「理解力」「思考力」は,そう簡単には向上しません。
多くの子どもが,「その日にはわかったつもりなのに,次の日には忘れている」状態にあります。
「人に説明すれば,理解度はかなり高くなる」というデータがありますが,
「人に説明しても,その日には理解できていたのに,1週間後には忘れている」子どもが多いことも事実です。
算数や数学のように,ある時点で習得した内容を,何度も繰り返し使っているうちにしっかり理解していくというパターンの学習もあるのですが,その算数や数学でさえ,
小テストのときにはできていたのに,定期テストのときには忘れている,ということが起こります。
こういう子どもの「学習定着率」を下げる効果が高い学習とはどのようなものか,想像できますか?
小学校には「定期考査」がありません。
かなり短い範囲でペーパーテストが行われます。
まだ記憶が新しい内にテストをして,点をとらせて,理解したことにする短いスパンの評価は,
中学校や高等学校では通用しません。
教育現場ではこんなに当たり前のことが,理解できずに,すぐに「今までにない指導法」に飛びつく人がいますが,なぜ失敗するのか,その理由をつかむのはごくごく簡単なことです。
「話し合い活動」は,とても意義のある学習方法です。
しかし,これを繰り返すうちに,子どもは「不特定多数に向けられる言葉」への集中力を失っていきます。
極小規模校で指導していた教師が,子どもの経験のためにと大人数の教室に子どもを入れてみて,このことに気づいたという例を以前に紹介したことがありますが,
「不特定多数に向けられる言葉」が聞けない子どもが増えている原因がどこにあるか,きっと気づける人が多いと思います。
「理解したつもり」になりやすい学習の落とし穴を実感できる機会がこれから増えるかもしれません。
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