「社会的な見方・考え方」を教えるために
次期学習指導要領の目玉は,(改正)教育基本法(・・・註:実は,この内容自体に課題があるのだが・・・)や学校教育法の規定にそくして,子どもに身につけさせたい資質・能力を明らかに示して,それを育てるために各教科等独自の「見方・考え方」を働かせることができるような学習指導を目指すことにある。
社会科・地理歴史科・公民科では,「社会的な見方・考え方」を育成しなければならない。
「社会的な見方・考え方」で根本的に大切な発想は,
「人によって違いがある」「見方・考え方は1つではない」ということである。
週刊東洋経済8月27日号の佐藤優コラムでは,「さまざまな事件を読み解く3つの視点」が紹介されている。
分けて考えるべき「3つの視点」=「事実関係」「認識」「評価」。
「事実関係」の理解を誤ると,当然,「認識」や「評価」も間違ったものになる。
しかし,「正確な事実関係をおさえること」は,たとえば犯罪操作を例に取ってみても,決して易しいものとは言えないことが想像できる。
だれか(あるいは組織)が事実を隠したり,違うことを事実として発表したり,一部の事実しか発表しなかったり・・・。
だから,「社会的な見方・考え方」でまずは大事なのは,「そこに示された事実関係が,本当のものかどうか,一応は疑ってみる」という批判的な姿勢をもつことである。
「振り込め詐欺」にひっかかる人に,こういう姿勢の大切さを突きつけるのは酷だろうか。
「社会の見方・考え方」の難しい点は,
「事実関係」が同じでも,「認識」が同じになるとは限らない,ということである。
私はこのコラムを読むまで知らなかったが,トランプ大統領候補がアメリカではバッシングを受けているが,ロシアでは肯定的な内容のものが多いということ。
>米国で孤立主義的な外交哲学を持って,主要国との「すみ分け」を提唱する賢明な政治家が米国大統領候補になったという印象を受ける
「認識」が異なる背景にあるのは,「認識を導く利害関心」が異なることである。
その「事実関係」が,自分たちにとって「望ましいことか」「望ましくないことか」によって,「認識」は180度違うものになるかもしれない。
「利害関心」とまでいかなくても,「目標」が異なれば,「認識」が変わる例として,
せっかく90点をとったのに,家で親から叱られた,というケースが教育では想定できる。
同じ90点でも,「とても努力した結果,点が上がった」という子どもの認識と,「満点に10点も足りない」という親の認識は異なる。
これは教育の世界の話だと笑うことはできない。
たとえば災害対策や環境問題への「認識」は,今のままで本当によいのだろうか。
>逮捕されることが予想される人やメディアバッシングが予想される人は,楽観論に傾く傾向がある
冷静な「認識」の持ち方を社会科では教えなければならない,ということである。
最後の「評価」についても,難しい課題である。
50億円かけて都知事選挙をする意味があったかどうか,という問いを立てると,
人によって意見は対立するだろう。
しかし,「評価」を念頭においた意思決定,政策判断というものも大切である。
社会科で教える「社会的な見方・考え方」は,奥が深い。
« よい授業を続ける教師がしていること | トップページ | 沖縄教員採用試験問題「丸写し問題」から見る「教員採用の資質・能力」 »
「教育」カテゴリの記事
- 教員になりたての人がすぐ辞める理由(2019.01.12)
- 教育は「願ったもの勝ち」「言ったもの勝ち」ではない(2019.01.08)
- 「一人も見捨てない」は罪な要求である(2019.01.04)
- 列で並ぶこと自体が好きな?日本人(2019.01.01)
「学習指導要領」カテゴリの記事
- なぜ新しい学習指導要領が失敗に終わることがわかっているか(2018.01.17)
- 現実的な教育内容や教育方法の議論がなぜ小学校や高校では役に立たないか(2017.12.29)
- 歴史用語半減による「ゆとり」が生むもの(2017.11.19)
- 教師の成長力を奪う力(2017.11.19)
- 成長をとめないために(2017.11.18)
「教育改革」カテゴリの記事
- 改正教育基本法第16条の問題点(2018.12.28)
- 今,手を抜いていると,公教育の民営化が本格化したとき,・・・(2018.11.24)
- 国後島で考えたこと~日本の教育(2018.10.02)
- 都合の悪いことに目を向けさせなくする教育(2018.09.08)
「リーダーシップ」カテゴリの記事
- ネガティブ・ケイパビリティ~解決困難な問題に正対し続けられる資質能力(2017.12.04)
- マリオが総理大臣ならピカチュウを防衛大臣,ハローキティを外務大臣に(2017.12.02)
- 「大人になったら教師はいなくなる」は大間違い(2017.11.27)
- 準備体操なしで全力疾走させるような授業はアウト(2017.11.26)
- 教師の成長力を奪う力(2017.11.19)
「歴史学習」カテゴリの記事
- 皇族への言論弾圧(2018.11.30)
- 正倉院展を訪れて(2018.11.06)
- 日本における戦後の急速な発展を支えた教育とは?(2018.09.22)
- 近づきにくい人に近づく方法(2018.09.10)
- 縄文女子と飯盛山のさざえ堂(2018.08.15)
「社会科」カテゴリの記事
- 止まらないビールの需要減(2018.12.30)
- 皇族への言論弾圧(2018.11.30)
- ありえない課題設定・・・EUが1つの国?(2018.11.24)
- 1000人当たりの暴力行為発生件数ワースト5は(2018.10.29)
- 創造性を奪うポートフォリオ評価(2018.06.05)
「教職教育」カテゴリの記事
- 「総合的な学習の時間」の指導ができるように教育できるのはだれか(2019.11.24)
- 生徒との対話の中から自然に目標達成へのルートをつくる(2018.12.26)
- 私でなくてもいい,私ではない方がいい(2018.12.14)
- 現実的な教育内容や教育方法の議論がなぜ小学校や高校では役に立たないか(2017.12.29)
- 日本の教育に欠けている「適時的で適正な評価」の発想(2017.12.25)
「仕事術」カテゴリの記事
- ネガティブ・ケイパビリティ~解決困難な問題に正対し続けられる資質能力(2017.12.04)
- 準備体操なしで全力疾走させるような授業はアウト(2017.11.26)
- 歴史用語半減による「ゆとり」が生むもの(2017.11.19)
- 教師の成長力を奪う力(2017.11.19)
- 成長をとめないために(2017.11.18)
「教師の逆コンピテンシー」カテゴリの記事
- 遠慮しないで情報を提供しろ!~いじめを見逃す環境との戦い(2018.12.29)
- 偶然の重なりと緻密な演出~インスタレーションから受けた刺激(2018.12.22)
- 子どもから有能感を奪い取る方法(2018.11.25)
- 量より質が大事なものと,質より量が大事なものとは?(2018.04.23)
- 現実的な教育内容や教育方法の議論がなぜ小学校や高校では役に立たないか(2017.12.29)
「教育実習」カテゴリの記事
- 現実的な教育内容や教育方法の議論がなぜ小学校や高校では役に立たないか(2017.12.29)
- 日本の教育に欠けている「適時的で適正な評価」の発想(2017.12.25)
- 鉄道トラブルと学校教育の劣化の共通点(2017.12.23)
- ネガティブ・ケイパビリティ~解決困難な問題に正対し続けられる資質能力(2017.12.04)
「教員研修」カテゴリの記事
- 現実的な教育内容や教育方法の議論がなぜ小学校や高校では役に立たないか(2017.12.29)
- 日本の教育に欠けている「適時的で適正な評価」の発想(2017.12.25)
- 鉄道トラブルと学校教育の劣化の共通点(2017.12.23)
- ネガティブ・ケイパビリティ~解決困難な問題に正対し続けられる資質能力(2017.12.04)
「グローバル人材」カテゴリの記事
- 孤立・自壊する可能性に気づいた?中国との関係づくり(2018.10.26)
- 大坂なおみ選手のインタビューへの非難・抗議(2018.09.14)
- マリオが総理大臣ならピカチュウを防衛大臣,ハローキティを外務大臣に(2017.12.02)
- 準備体操なしで全力疾走させるような授業はアウト(2017.11.26)
- 11月20日 少子化が進む日本だが,日本には1600万人もの子どもがいる!(2017.11.20)
「アクティブ・ラーニング」カテゴリの記事
- 現場感覚のない人が社会感覚のない人にアドバイスを送る教育の世界の不思議(2018.12.01)
- 苦しいときほど笑って「感情の錯覚」を生み出す(2018.09.15)
- 教科独自の見方・考え方の意味や意義がわかるためには(2018.09.15)
- 「知らない」ことが持っている大きなパワー(2018.09.09)
- 子どもたちに多大なストレスをかけている道徳(2018.06.02)
« よい授業を続ける教師がしていること | トップページ | 沖縄教員採用試験問題「丸写し問題」から見る「教員採用の資質・能力」 »
コメント