空理空論に堕ち,問題山積の次期学習指導要領
次期学習指導要領の方向性がほぼ固まったようである。
率直な感想は,典型的な観念先行型の空理空論のお手本のような趣旨だということである。
関係者は「今までにないものをつくろう」と粋がっているようだが,
今回の改訂の最大の特色は,作り手側が自滅しかけているところにあると思われる。
実施前から,相当数の児童生徒たちが「おおむね満足」な学習の実現状況に達しないことが目に見えている。
私の予想では,「まともに教科書がつくれない」初めての学習指導要領になる。
次期学習指導要領の本当の趣旨から言えば,「教科書なんて必要ない」というより,
むしろ教科書があると,「主体的な学習」が阻害されることになり,
子どもたちに望んでいる資質・能力が保証されにくくなってしまうことになる。
「作り手側の自滅」とは,こういう意味も含んでいる。
あなたの中学校,高校時代の歴史の授業を思い起こしていただきたい。
私は,教科書を開いて授業を受けたことがほとんどない。
資料プリントか,教師の話と板書を中心に授業が進む。
授業中に問いがいくつも発せられるから,与えられた情報の中からその答えを考える。
もちろん,「教科書に書かれていると思われる知識」も総動員して。
課題をグループで解決するような形式になれば,ほぼ「アクティブ・ラーニング」になる。
次期学習指導要領の目指すものは,この学習のさらに上を行くことになる。
「主体的に学ぶ」ことが中心的な柱になるから,教師が問いを発すること自体,子どもの「主体性」を邪魔することになってしまう。「問い」も子どもが考え,自らの解決に向かう学習を進めていかなければ,求めている資質・能力が身についたとは言えない教育になってしまうのだ。
もし,こういう授業ではなく,まるで国語のように,教科書を開き,最初から文章を読んでいくような歴史の授業を受けていた人は,「主体的な学習」のイメージはわかないのではないか。
教科書には「背景」「原因」「経過」「結果」「結論」が順序よく示されており,どこからどう読んでも,「導き出したい話」が全部載ってしまっている。
だから,もし歴史的思考力を本気で身につけさせようとしたら,教科書を読めば,国語の問題として解けてしまうような問いを発するべきではない。
こういうレベルの話を,すべての子どもたちに身につけさせようとしているのが,次期学習指導要領である。
ある教科の雑誌の特集を読んでも,引用元が同じだから,みんな同じようにつまらない話ばかりが並んでしまっている。
結論を「学習指導要領に左右される度合いは少ない」などと,そもそもの編集意図を台無しにしてしまうような結論で終わっているものまである。
地に足がつかない話が今後も延々と続けられることになるだろうが,
まずは,学習指導要領の中身がどうなるかに注目したい。
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