1冊の本の価値の格差
教育の世界の人間ばかりを相手に話をしている人は,話せば話すほど,自分自身がドツボにはまっていく感覚をもてるようにした方がよい。
日本全国,どこに行っても似たような反応が返ってくる理由は何かと自問してみればよい。
教育など,所詮は「日本国内の問題」としか捉えていない人が大部分である。相手が教師であれば,なおさらである。
読書編で紹介した1冊の本には,本当に衝撃を受けた。
教育関係の図書とは,内容の重みに天と地ほどの差がある。
1冊の価値の格差をこれほどまでに強く感じたことはなかった。
アクティブ・ラーニングの関係書のほとんどは,「内容に乏しい」。
それはそうだろう。「ハウツー本」なのだから。「だれにでもできる」ことを書いてあるというのだから。
一方,「事実」を積み上げてできあがるノンフィクションものに,しばらくふれていなかったことを後悔している。
教育の世界では,「事実」のほとんどがプライバシーにかかわるものだから,内容が公になることはあまりない。
「世界史未履修」とか「保健の授業をやっていない」とか「免許失効教員」とかの問題は,それで困る子どもがだれもいなかったとしたら,そもそも必要がないものであることがわかってしまうという点で,本当は隠しておきたい「事実」だった。「教員免許」すらもっていなくても,授業や業務が成立してしまう「事実」が明らかになってしまうのも困りものである。
だれがどのような教え方をしたら,どういうタイプの子どもがどれだけ上達したのか,こういうことはたとえばテニススクールのようなところでは,情報の共有化がなされ,コーチの技能の向上に企業として役立てられているのかもしれない。
しかし,学校では,極小規模のところでさえ,教科別のこうした「個別指導の具体的経過と上達の記録」が整っているところはないだろう。「指導要録」程度の内容で,意味があるとは思えない。
かつては,ドキュメンタリーのような指導記録が刊行されていた時代もあったが,どうしても個々の子どものプライバシーが壁になる。特に障がいをもった子どもに焦点が当てられる場合などは。
「事実」の記録を残しようがないタイプの教育方法は,何としても手を抜いて17時に帰りたいと思っている教師たちには願ってもない道具だろう。
時期も時期だから政治的内容にはふれにくいのだが,「事実」が残ってしまう仕事というのは本当にきついものである。
自分の身を守ることに精一杯の人間が考えることと,世界の人々から尊敬が得られるほど,国際的な貢献を増やしていきたいと願う人間が考えることのレベルにどれだけの隔たりがあることか。
視野が広いということが,本当にプラスにはたらくだけのことなのか。
今,世界の人々の視野は確実に狭くなっていっているのではないか。
日本は,それを広げることに何かの役割を果たせるのではないか。
価値の異なる2冊の本を前にしただけで,真剣に考えるべき課題がいくつも浮かんでくるのはありがたいことである。
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