「教えたがり病」に効く薬はない?
教師になる人の多くが,「教えることで,子どもができるようになり,輝いていく」という変化を目の当たりにできることを動機にして,教師の道を選んでいるはずだと私は勝手に思っている。
だから,『学び合い』を導入して教師の生きがいを感じられるのは,定年間際くらいにならないと絶対に無理だろうなと本気で考えている。
現場に長い間いると,「教え方が下手」な教師は子どもから尊敬されることはないのだが,下手に教師が教えていない方が,子どもがしっかりと育っている実感をもつ場合もある。
もちろん,「しっかり教えられていないから,この状態なのだな」とがっかりすることの方が多いのだが。
何をどこまで教えて,どこから先は教えない方がよいのか。
教師になったらぶつかる大きな壁であろう。
子どもたちは個人差が大きいのは当然として,小学校から上がってくる人数が多ければ,「集団差」も非常に大きい。
だから学習指導にしろ,生活指導にしろ,「これが正解」という指導法はないというのが正しい理解であろう。
先日,私が監督をつとめる中学校のチームが都道府県大会に出場することが決まった。
私が試合中に気になり,試合後はもっと気にかかっていたのは,自分のチームではなく,相手のチームのピッチャーの癖である。
ストレートもカーブも申し分ないピッチャーだったが,コントロールが定まらない。
試合序盤で投球数が50球をこえるほどであった。
こちらは「できるだけたくさんボールを投げさせること」を攻撃の第一目標に掲げていたので,その作戦通りに試合は進み,ストレートの伸びがなくなってきた試合後半に長打が出て逆転勝利をあげることができた。
試合終了後も,グラウンドの使用可能時間が余っていたので,コーチの指導を受けてピッチング練習を繰り返していたが,私の目から見て,修正すべき点は1つしかなかった。
それを伝えてあげるかどうか迷ったあげく,夏のブロック大会で当たるかもしれない,という気持ちもあり,何も言わずにグラウンドを去ることにした。
私は専門委員でもないし,やっとのことでつかんだ都道府県大会への切符だったが,才能のある子どもの実力は伸ばしてあげたい,という気持ちはとても強い。
自分のチームの選手には気づいたことをその都度告げているが,そもそも簡単に直せる癖はない。
できないことはそう簡単にできるようにはならないものである。
だからできるようになるまで同じことを繰り返し繰り返し話していく。
相手のピッチャーに私が思ったことを告げても,急にコントロールが定まるとは限らない。
一度限りのアドバイスでは効果はないかもしれない。
しかし,コーチから受けているアドバイスは,私の考えているものとは真逆に見えた。
もちろん,コーチの指導のめあてが私とは真逆なのかもしれない。
中学校レベルでの大成ではなく,高校での成長を視野に入れて教えているのかもしれない。
たった1つの「気づき」で,私のチームではなく,彼のチームが都道府県大会に進出できたかもしれないと思うと,何だか落ち着かないというのは,教師の性だろうか。
相手校の昨年度までの校長先生は,私が初任の中学校に同期で異動されてきた方だった。
今でも年賀状で近況を教えて下さる先生で,さぞかしがっかりされていると思われる。
もし次回対戦できたら,「欠点のない」状態のピッチャーを打ち崩して勝利したい。
« ピッチに堂々とゴミを捨てられる文化とそれを許さない文化 | トップページ | 「教師」と「酸素」の共通点 »
「教育」カテゴリの記事
- 教員になりたての人がすぐ辞める理由(2019.01.12)
- 教育は「願ったもの勝ち」「言ったもの勝ち」ではない(2019.01.08)
- 「一人も見捨てない」は罪な要求である(2019.01.04)
- 列で並ぶこと自体が好きな?日本人(2019.01.01)
「教育改革」カテゴリの記事
- 改正教育基本法第16条の問題点(2018.12.28)
- 今,手を抜いていると,公教育の民営化が本格化したとき,・・・(2018.11.24)
- 国後島で考えたこと~日本の教育(2018.10.02)
- 都合の悪いことに目を向けさせなくする教育(2018.09.08)
「リーダーシップ」カテゴリの記事
- ネガティブ・ケイパビリティ~解決困難な問題に正対し続けられる資質能力(2017.12.04)
- マリオが総理大臣ならピカチュウを防衛大臣,ハローキティを外務大臣に(2017.12.02)
- 「大人になったら教師はいなくなる」は大間違い(2017.11.27)
- 準備体操なしで全力疾走させるような授業はアウト(2017.11.26)
- 教師の成長力を奪う力(2017.11.19)
「野球」カテゴリの記事
- 日曜日の河川敷(2018.08.26)
- センカクの14億円とカナノウの2億円(2018.08.25)
- 中心選手を育成するために負け続ける勇気(2018.06.09)
- 「強いチーム」の勝因(2018.05.27)
- 「勲章」としてのブーイング(2018.05.26)
「学習の評価」カテゴリの記事
- 創造性を奪うポートフォリオ評価(2018.06.05)
- ペーパーテストだけで「評価」ができる「教科」はない(2018.05.26)
- 現実的な教育内容や教育方法の議論がなぜ小学校や高校では役に立たないか(2017.12.29)
- 日本の教育に欠けている「適時的で適正な評価」の発想(2017.12.25)
- 歴史用語半減による「ゆとり」が生むもの(2017.11.19)
「学力向上」カテゴリの記事
- 教師の成長力を奪う力(2017.11.19)
- 成長をとめないために(2017.11.18)
- 普遍性,汎用性があると誤解する「研究者」たち(2017.11.10)
- 小学校の授業を参考にする高校教師(2017.11.08)
- 最低限の教育の場の確保を!(2017.11.06)
「教職教育」カテゴリの記事
- 「総合的な学習の時間」の指導ができるように教育できるのはだれか(2019.11.24)
- 生徒との対話の中から自然に目標達成へのルートをつくる(2018.12.26)
- 私でなくてもいい,私ではない方がいい(2018.12.14)
- 現実的な教育内容や教育方法の議論がなぜ小学校や高校では役に立たないか(2017.12.29)
- 日本の教育に欠けている「適時的で適正な評価」の発想(2017.12.25)
「仕事術」カテゴリの記事
- ネガティブ・ケイパビリティ~解決困難な問題に正対し続けられる資質能力(2017.12.04)
- 準備体操なしで全力疾走させるような授業はアウト(2017.11.26)
- 歴史用語半減による「ゆとり」が生むもの(2017.11.19)
- 教師の成長力を奪う力(2017.11.19)
- 成長をとめないために(2017.11.18)
「教師の逆コンピテンシー」カテゴリの記事
- 遠慮しないで情報を提供しろ!~いじめを見逃す環境との戦い(2018.12.29)
- 偶然の重なりと緻密な演出~インスタレーションから受けた刺激(2018.12.22)
- 子どもから有能感を奪い取る方法(2018.11.25)
- 量より質が大事なものと,質より量が大事なものとは?(2018.04.23)
- 現実的な教育内容や教育方法の議論がなぜ小学校や高校では役に立たないか(2017.12.29)
「小中連携」カテゴリの記事
- 中学校化している?小学校の授業(2018.10.15)
- なぜ学習指導要領が「小学校寄り」になるのか?(2018.10.13)
- 小学校英語教育の最大の欠点(2018.08.11)
- 中1ギャップを考える前提としての小中ギャップ(2018.05.28)
- 小学校に望む本当の「働き方改革」=小学校が変われば「中1ギャップ」解消に一歩近づく(2018.01.30)
「道徳」カテゴリの記事
- 「一人も見捨てない」は罪な要求である(2019.01.04)
- 五輪ボランティアの数字を見て(2018.12.27)
- 南青山に似た環境の公立学校は,頑張った。(2018.12.23)
- チコちゃんに叱られる~おやじギャグが言える年齢になると,ホンネも漏れやすい(2018.11.11)
- 道徳教育が成立するための条件とは(2018.10.31)
「教育実習」カテゴリの記事
- 現実的な教育内容や教育方法の議論がなぜ小学校や高校では役に立たないか(2017.12.29)
- 日本の教育に欠けている「適時的で適正な評価」の発想(2017.12.25)
- 鉄道トラブルと学校教育の劣化の共通点(2017.12.23)
- ネガティブ・ケイパビリティ~解決困難な問題に正対し続けられる資質能力(2017.12.04)
「教員の評価」カテゴリの記事
- 私でなくてもいい,私ではない方がいい(2018.12.14)
- ペーパーテストだけで「評価」ができる「教科」はない(2018.05.26)
- 子どもの人間関係に対する不感症の影響力(2018.03.28)
- 自分のダメさを完全に棚上げできる才能の伝授(2017.12.29)
- 現実的な教育内容や教育方法の議論がなぜ小学校や高校では役に立たないか(2017.12.29)
「教員研修」カテゴリの記事
- 現実的な教育内容や教育方法の議論がなぜ小学校や高校では役に立たないか(2017.12.29)
- 日本の教育に欠けている「適時的で適正な評価」の発想(2017.12.25)
- 鉄道トラブルと学校教育の劣化の共通点(2017.12.23)
- ネガティブ・ケイパビリティ~解決困難な問題に正対し続けられる資質能力(2017.12.04)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント