学会と『学び合い』や『学びの共同体』にみるサイロ・エフェクト
昔から学会などの専門的な集団が「たこつぼ」として批判されているのはだれでも知っていることだろう。
私自身,社会科教育に関係する学会に出席してみて,あちこちの部屋を出入りして話を聞いたりすることには意味があるかもしれないが,同じ部屋にいて分野が限られている話を聞きづけることには意味がないことがよくわかった。1日とか2日とかをつぶして参加することがそもそも現場の教師には難しいが,あの程度のことはネットでどんどん公表すればよい。参加者はどんどん減ってしまうかもしれない。それは,発表者に質問する必要を感じないからである。こうして参加者が数人単位になってしまえば,ようやく学会も改革しようとする気にもなるだろう。「教育」関係の学会ならば,「論文」や「発表」の数=「たこつぼ実績」を増やし,キャリアにつなげていきたい一部の人間だけの「たこつぼ」であってはならないはずである。
「たこつぼ」は,専門化が進んで,境界を越えることがなくなり,視野がせまくなることが問題であり,
専門化が進むこと自体が問題なのではない。
専門家集団が存在しなければ,そもそも組織の水準の維持が不可能になり,存在意義自体がなくなる。
佐藤学の『学びの共同体』の場合,「境界を越える」意義もわかっていると思うから,教育のように視野を広めつつ,専門性を高めることをねらいとして活動されていれば問題ないのだが,「教育論」の落とし穴がここにある。
学校現場の教師にとって,個人の力量によって成立する部分が多い「教科指導」と,組織的な行動によって効果が上がる「生活指導」「進路指導」には大きな違いがあることは簡単に実感できる。
学校で子どもが過ごす大部分は「教科の授業」だから,教育学者も「授業」を研究対象にせざるをえなくなる。
ただ,「授業一般」として研究しようとすると,本来は重視されるべき「教科としての専門性」が対象にされにくくなる。
『学びの共同体』も『学び合い』も,教科という「サイロ」内での議論を避けるために「だれでもどこでもできること」を対象に「教育理念」なり「それを実現するための方法論」を提供しているが,実はそういう行動自体が,すべての教師や子どもを一つの「サイロ」に閉じ込めようとする事態になっている。
『学びの共同体』や『学び合い』では,平均点を30点から50点に上げることはできるかもしれず,これを「学力向上」というのなら,それはそれで実現できていると言えるわけだが,「みんなで点数を上げることが大事」という「狭い学力観に閉じこもる」という危険性を有している。
「この程度のことができれば,それでよいのだ」という子どもが増えていく。
「その程度のことでは話にならないんだよ」と参観者ならすぐに気がつくはずである。
『学びの共同体』や『学び合い』が強調しているのは「学び合う文化」をつくることである。
「学び合う文化」は,教科学習だけを通して広めていくものではなく,現場では行事や部活動などの集団活動を通して実感させるものである。
「学び合う」前に,まずは「自ら学ぶ」姿勢を身につけさせることが教科学習の基本であることがわかっていない教師が増えていくことは,本当に危険なのである。
『学びの共同体』や『学び合い』という名のもと,「自ら学ぶ」意欲を奪い続けていないかどうか,「サイロ化」が進められていないかどうか,監視を怠ってはならない。
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