「ライバルを出し抜く」という経験ができない教育界
タイトルをお読みになって,「いやいや,そんなことはない,これこれという事情がある」と実例を紹介したい人を刺激するための言葉でもある。
なぜこのようなテーマの文章を書こうと思ってしまったかというと,週刊東洋経済4月16日号のコラム「知の技法 出世の作法」で佐藤優さんが次のようなことを紹介していたからである。
>極秘情報をリーク(漏洩)して自らに有利な状況を作ることができないようでは,一級の外交官と言えない。リークが露見しないように細心の注意を払いつつ秘密を暴露する能力も,ライバルと差をつけるうえではとても重要なのだ。
このあと紹介されるのは,日ロ関係をめぐる権力闘争の話で,情報源があると新聞には紹介されないこんな話が読めるのかと感動してしまう。
ただ,私の関心は,官僚社会や企業社会のような「組織内のライバルとの戦い」を知らない教員世界の問題にある。
学校でも子どもの喧嘩のような「足の引っ張り合い」は起こるが,「ライバルに勝つ」などという発想は,部活動の大会を除けば,教育界にはほんと存在しない。
学校現場には子どもの学力向上が求められているが,そもそも学力の場合,自分が教えたからよくできるようになったのか,もともとできるのかの区別はつきにくい。塾に通っている子どもの場合も言うまでもない。
自分のクラスの成績がよくなったからといって,それで給料が上がるわけでもなく,むしろ他のクラスの子どもの心配をしてあげるのが良識のある教師というものである。
中には「いいクラスになったのは自分の指導力の賜だ」といい気になって本まで出版してしまう恥知らずもいるが,それはクラスで傷ついたり,教師に不満をもったり,学力不振で悩んだりした経験をもつ子どもへの想像力の欠如がなせる業に過ぎない。
効果があるとすれば,とりあえず「自信に満ちた雰囲気がある」ために子どもに安心感を与えるという面は肯定できるかもしれない。
競争がない社会では,競争がある社会以上に,「腐敗」が起こりやすい。
学会などでは適当にデータを捏造して自分の都合の良い論文がいくらでも書けてしまうが,教育界ではこんな出鱈目はまだ可愛いものである。
競争がない社会の「腐敗」ほど手に負えないものはないのだ。
新しいことにチャレンジしない。
できるだけ手を抜くことを考える。
子どもが生き生きしているだけで満足する。
こういう教師が増えていることは,出版物の売れ行きや研究会等への自主的な参加が増えているのかどうかで判断することができよう。
教育は仕事の成果が数値化しにくいこと,子どもと自分との関係でほとんど完結する社会だから,「腐敗」がばれにくいという背景があることも課題である。
週刊誌ではよく「公立校」に子どもを通わせている親の悩みが特集されている。
「腐敗」の根は深いので,やはり「競争」原理が機能している塾業界に頼らざるを得ないのが現状だろう。
「競争」原理が働いている公立の中高一貫の場合は,学校が塾業界に頼ってくれているという安心材料がある。
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