「社会」科の学習にはなっていない小学校の歴史~人物学習の弊害~
4月は小学校から進学してきたばかりの生徒たちに,様々なアンケート調査をして,これまでの学習の実態をたしかめている。
歴史学習について私がこれまでに調査した結果によると,子どもは「社会」の仕組みを学ぶことなく,ただ「人物」の性格だとか行ったことばかりが記憶に残っているだけであることが印象的であった。
小学校の歴史上の人物の学習が,どのような実態になっているかをある本から紹介してみたい。
「奈良の大仏と聖武天皇」という単元では,「実物大」にこだわった「学習活動」が紹介されている。
体の一部の大きさを子どもに実感させた後,
「すごく大きな仏像をつくらせることができた天皇がいた」から,
「天皇中心の政治が確立した」と考えられるのだという。
小学校では,児童が「調べる」ことを重視しているはずである。
もし,大仏建立前後に起きていた出来事を発表する児童がいたら,どうするのだろう。
大仏建立後も,政治が不安定だったことは間違いないし,そもそも仏教政治の弊害の方が深刻な課題になっていくのが奈良時代の特色なのである。
「そもそも仏教の力で社会の動揺をおさえるとは,どういうことか」という疑問を子どもが持っていたらどうするのだろう。
「民衆の側もいい迷惑だったのではないか」という子どもの発言は取り上げられるのだろうか。
「権力者は民衆を幸せにするとは限らない」というごくごく当たり前のことに気付かせてもらうチャンスはあるのだろうか。
人物学習だけが問題なのではない。「明治の国づくり」という単元では,
「明治になると,世の中はどのように変わっていったのだろうか」という学習問題を想定しておき,
江戸時代末と明治時代初めの日本橋の建物,乗り物,人などの変化を絵から読み取らせるという。
「世の中」というものを,子どもはどのようなものとしてとらえることになるのだろう。
いや,どのようにとらえることを教師は望むのだろう。
北朝鮮の首都を訪れた人が,そこで見聞きできるものから「北朝鮮」の「世の中」を知ることはできないことは,小学生でもわかるはずである。
小学校の歴史学習を見ていると,教師の方が「わかったつもりになっていること」を前提にして,「何もわかっていない」子どもたちに無理な誘導をしている場面に多く出会う。
つくづく,このままの歴史学習では,「社会」のことがほとんどわからないまま終わりそうだ,という印象が強いということだけ,とりあえず書き記しておきたい。
« 次期学習指導要領で「大量生産」される「落ちこぼれ」 | トップページ | 「アンケート調査」の実態~嘘を平気でついていたと正直に話す子どもたち~ »
「教育」カテゴリの記事
- 教員になりたての人がすぐ辞める理由(2019.01.12)
- 教育は「願ったもの勝ち」「言ったもの勝ち」ではない(2019.01.08)
- 「一人も見捨てない」は罪な要求である(2019.01.04)
- 列で並ぶこと自体が好きな?日本人(2019.01.01)
「学習指導要領」カテゴリの記事
- なぜ新しい学習指導要領が失敗に終わることがわかっているか(2018.01.17)
- 現実的な教育内容や教育方法の議論がなぜ小学校や高校では役に立たないか(2017.12.29)
- 歴史用語半減による「ゆとり」が生むもの(2017.11.19)
- 教師の成長力を奪う力(2017.11.19)
- 成長をとめないために(2017.11.18)
「教育改革」カテゴリの記事
- 改正教育基本法第16条の問題点(2018.12.28)
- 今,手を抜いていると,公教育の民営化が本格化したとき,・・・(2018.11.24)
- 国後島で考えたこと~日本の教育(2018.10.02)
- 都合の悪いことに目を向けさせなくする教育(2018.09.08)
「歴史学習」カテゴリの記事
- 皇族への言論弾圧(2018.11.30)
- 正倉院展を訪れて(2018.11.06)
- 日本における戦後の急速な発展を支えた教育とは?(2018.09.22)
- 近づきにくい人に近づく方法(2018.09.10)
- 縄文女子と飯盛山のさざえ堂(2018.08.15)
「社会科」カテゴリの記事
- 止まらないビールの需要減(2018.12.30)
- 皇族への言論弾圧(2018.11.30)
- ありえない課題設定・・・EUが1つの国?(2018.11.24)
- 1000人当たりの暴力行為発生件数ワースト5は(2018.10.29)
- 創造性を奪うポートフォリオ評価(2018.06.05)
「社会科教師の逆コンピテンシー」カテゴリの記事
- ありえない課題設定・・・EUが1つの国?(2018.11.24)
- 歴史用語半減による「ゆとり」が生むもの(2017.11.19)
- アメリカの反知性主義を輸入した人たち(2017.06.28)
- 選挙が違憲だと,国民審査が機能しなくなる?(2017.06.01)
- 「アカデミアの世界」からこのブログへ投げかけられた言葉とは?(2017.05.29)
「学習の評価」カテゴリの記事
- 創造性を奪うポートフォリオ評価(2018.06.05)
- ペーパーテストだけで「評価」ができる「教科」はない(2018.05.26)
- 現実的な教育内容や教育方法の議論がなぜ小学校や高校では役に立たないか(2017.12.29)
- 日本の教育に欠けている「適時的で適正な評価」の発想(2017.12.25)
- 歴史用語半減による「ゆとり」が生むもの(2017.11.19)
「教職教育」カテゴリの記事
- 「総合的な学習の時間」の指導ができるように教育できるのはだれか(2019.11.24)
- 生徒との対話の中から自然に目標達成へのルートをつくる(2018.12.26)
- 私でなくてもいい,私ではない方がいい(2018.12.14)
- 現実的な教育内容や教育方法の議論がなぜ小学校や高校では役に立たないか(2017.12.29)
- 日本の教育に欠けている「適時的で適正な評価」の発想(2017.12.25)
「教師の逆コンピテンシー」カテゴリの記事
- 遠慮しないで情報を提供しろ!~いじめを見逃す環境との戦い(2018.12.29)
- 偶然の重なりと緻密な演出~インスタレーションから受けた刺激(2018.12.22)
- 子どもから有能感を奪い取る方法(2018.11.25)
- 量より質が大事なものと,質より量が大事なものとは?(2018.04.23)
- 現実的な教育内容や教育方法の議論がなぜ小学校や高校では役に立たないか(2017.12.29)
「小中連携」カテゴリの記事
- 中学校化している?小学校の授業(2018.10.15)
- なぜ学習指導要領が「小学校寄り」になるのか?(2018.10.13)
- 小学校英語教育の最大の欠点(2018.08.11)
- 中1ギャップを考える前提としての小中ギャップ(2018.05.28)
- 小学校に望む本当の「働き方改革」=小学校が変われば「中1ギャップ」解消に一歩近づく(2018.01.30)
「教育実習」カテゴリの記事
- 現実的な教育内容や教育方法の議論がなぜ小学校や高校では役に立たないか(2017.12.29)
- 日本の教育に欠けている「適時的で適正な評価」の発想(2017.12.25)
- 鉄道トラブルと学校教育の劣化の共通点(2017.12.23)
- ネガティブ・ケイパビリティ~解決困難な問題に正対し続けられる資質能力(2017.12.04)
「教員の評価」カテゴリの記事
- 私でなくてもいい,私ではない方がいい(2018.12.14)
- ペーパーテストだけで「評価」ができる「教科」はない(2018.05.26)
- 子どもの人間関係に対する不感症の影響力(2018.03.28)
- 自分のダメさを完全に棚上げできる才能の伝授(2017.12.29)
- 現実的な教育内容や教育方法の議論がなぜ小学校や高校では役に立たないか(2017.12.29)
「教員研修」カテゴリの記事
- 現実的な教育内容や教育方法の議論がなぜ小学校や高校では役に立たないか(2017.12.29)
- 日本の教育に欠けている「適時的で適正な評価」の発想(2017.12.25)
- 鉄道トラブルと学校教育の劣化の共通点(2017.12.23)
- ネガティブ・ケイパビリティ~解決困難な問題に正対し続けられる資質能力(2017.12.04)
この記事へのコメントは終了しました。
« 次期学習指導要領で「大量生産」される「落ちこぼれ」 | トップページ | 「アンケート調査」の実態~嘘を平気でついていたと正直に話す子どもたち~ »
コメント