「コミュニケーション能力だけ」が高い子どもが増えたその先は・・・
言語活動を充実させることが重要だ,という言われ方をしたときに,
やれ「話し合い」だ「学び合い」だと騒いでいた人たちも,
「言語活動を充実させる」ことのねらいをきちんと見極めて,思考力や判断力,表現力を高めていかなければならない,なぜなら試験にも実際の仕事にも,こういう力がついていないと危ないからだ,
と目が覚めて,
「ただ子ども同士でやらせておけばよいものではない」ことに気づき始めている。
「コミュニケーション能力を向上させることが大事だ」と言われたときに,
「振り込め詐欺技術の高度化が進みそうだ」と揶揄してくれた人たちがいたが,
これから,「口だけが達者」な子どもが増えていったときの反動が私は心配である。
その1つは「道徳教育の充実」だが,これは「道徳の教科化」が決まってもはや先行きが怪しいことが明らかになっている。
「嘘でも良い言葉を発したもの勝ち」「嘘をついた方が得をする」という空気が蔓延しない対策を立てなければならない。
あとの1つは「教育内容の充実」で,振り子現象の1つである。いわゆるグローバル社会に対応した教養主義が求められていくことになろう。
しかし,こちらの解決方法もなかなかに難しい。
「知識基盤社会」だと言いながら,「知識」が疎かであることに社会は涵養である。
大学のセンセイまでもが(自己防衛のためだとも考えられるが)知識はすぐに陳腐化するものだ,と「知識重視」を唱える人を批判し,「知識詰め込み教育はよくない」などと言い出すが,大学を卒業しても教科書レベルの知識がない教師がいることへの責任を完全に放棄している。
こういう大学を卒業して教員免許を取得してしまった人が教師になってしまった場合は,ICTに頼るしかなくなってしまう。
多くの国や地域の学校教育というのは,能力は異なるものの,年齢は同じである子ども集団が同じ内容を学ぶところである。
同じ年齢であることを優先する結果,簡単に言えば「お友達」同士の会話が生活の中心となる場所が学校である。
しかし,「お友達」同士の会話ができるようになれば,「コミュニケーション能力が高まった」と言えるわけではないことは,学校のセンセイでなくてもわかる話である。
中学校や高校の場合,部活動に入っていれば,先輩や後輩,顧問の先生,対戦相手の生徒や顧問の先生などとのかかわりが生まれる。
挨拶程度の内容から,技術的な面でのアドバイス,お互いの課題の確認など,コミュニケーションの内容は多岐にわたってくる。
ただ教科の内容を消化させているだけの普通の教科教育では,身につかせることが困難な力がある。
お互い同士,「わかりあえる」ことが前提の授業では,必死に「わからせよう」とする心や努力そのものの価値が下がってしまう。
「わかりあえない困難さ」を乗り越えるタイプのコミュニケーション能力を育成するのは,教科学習の中では難しいのである。
グローバル化が進む社会に対応できる子どもを,1人の担任が40人の同年齢の子どもに対峙する学校社会で育成することがどの程度で可能なのか。
「コミュニケーション能力だけ」が高い子どもが増えてきたときの,次のことを考えておくべきだろう。
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