事前・事後 どちらも大事
学校における校内研修での研究授業,各種研究団体が行っている研究発表での研究授業は,
「事前」の研究の基盤づくり,指導案づくりに相当の労力をかけています。
肝心の「授業」は,50分で終わってしまうのですが。
結婚式と同じで,こうした「授業」も準備がとてもたいへんで,実際に行われると
あっという間に終わるもの。
その後が本当の「始まり」となるのでしょうが。
結婚式のように「研究授業」を1回きりのイベントと考えてしまうようでは,本当に意味はないのは確かです。
そういう背景を知っている人が,「指導案づくりより優先すべきこと」を主張しているという,
だれかの考えの背景を知っていないと,見当外れの「間違い探し」,「批判のための批判」となってしまいます。
もちろん,私などは「それでも事前の研究や指導案づくりも大事」という立場(授業する前に,これはおかしいということがわかっていれば,授業そのものの失敗が防げるから)ですが,
授業に関する意見交換がほとんど行われず,「指導と助言」でお茶を濁して終わりになってしまうような「研究授業」では全く意味がないので,「事前の研究を上回る努力を事後の検証と新たな仮説の提案などで行っていく」ことが大切なのでしょう。
しかし,教師には時間がない。そこで,次のような佐藤学の主張(岩波書店『専門家として教師を育てる』125頁)が登場します。
>授業の有効な「教え方」は一つではない。一〇〇の正解がある。それぞれの教師の個性と教室の多様性に即して授業者自身による「学びのデザイン」が尊重されるべきであり,教師の「教え方」の是非を協議するのではなく,教室で生起した一人ひとりの学びの事実の省察(リフレクション)を中心に協議すべきである。どこで学びが成立し,どこで学びがつまずいたのか,そしてどこに学びの可能性が潜在していたのか,それはなぜなのかを教室の事実に即して,子細に研究する必要がある。
上記の転換をはかるためには,事前の研究(指導案づくり)よりも,事後の研究(リフレクション)を中心に研究授業と授業協議会を行う必要がある。また,研究授業の回数を増やして校内の全教師に提案授業と協議の機会を保障するためには,事前の協同研究は最小限にして授業者のデザインにまかせ,事後の精緻なリフレクションを中心に校内研修を再組織することが必要ある。
こうした主張についてすら,現場教師の立場からは,
「そもそも一人ひとりの学びの事実を知るべき立場は授業者にあるのだが,40人の子どもを相手にそれを完璧にこなすのは難しいし,何より頻繁に授業を参観しにくる時間がある大学の研究者しかできないようなことを主張している。」
「たった一時間の授業の学びもわからないでどうすると言われるかもしれないが,授業は年間に何百時間と行うもので,継続的に子どもを見続けていなければ,わからないことだらけだろう」
という実感があり,「他の組の担任,他の教科の教師が見ても,子どもはふだんとは違った態度をとるに決まっているので,実態はあまり知ることができないで終わるだろう」という本音があるから,佐藤学の主張も主張されているだけで現場は何も変わらない状態が続くわけです。
要は,「学ぶ姿勢」「学ぶ態度」が教師自身に身についていない,ということに尽きるわけですが。
「学ぶ姿勢」「学ぶ態度」だけを主張する人たちがでてくるから,余計に反発を受けてしまう。
「教える姿勢」と「学ぶ姿勢」がしっかりとかみ合っている教師にこそ,学ぶ価値があるわけです。
ある研究会を主催していた先生に,以下のように申し上げましたが,なかなか実現はされていないようです。
「この研究会に参加した先生方に,ご自分の実践を通して,研究会で学んだことの成果を発表していただく時間を研究会に設けてくださいませんか」
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