『いじめ』での「謝罪の会」は強烈な遺恨を生む可能性あり
『いじめ』に関する調査や情報の共有には,かかわっている(傍観者的にあおるケースも含めると)生徒の数が非常に多いため,1件当たりでも相当の時間を要する。
人間のとても『醜い部分』を直視することになるから,精神的な疲弊も大きい。
学校では週1回のペースで職員全体の会議を行っているが,『いじめ』の報告だけで2時間,3時間かかるケースもあるだろう。職員会議だけでなく,学年の会議で夜の9時を過ぎるという経験をした教師も少なくないはずである。
『いじめ』に関する「十分な情報共有」をするべきだという主張は正しい。
しかし,「十分」とはどの程度のものなのかを言葉で説明することは難しい。
そもそもが,「十分な情報が得られていない」ケースがほとんどで,
今,「どこまでわかっているか」の確認だけでも毎日10分や15分ではすまない。
中学校には,小学校から継続した人間関係のもとで生活している子どもがとても多いわけだが,
小学校で『いじめ』の適切な対応ができていないと,
とてもこじれた形で中学校に「借金の肩代わり」が要求される。
イメージは,膨らむ利子に,処理が追いついていかない,というものである。
負債が負債を呼ぶ。膨れあがる国債残高のイメージである。
しかし学校には,不良債権を税金で処理してくれるようなシステムがない。
現場は,とてつもなく疲弊していく。
仙台のケースでは,『いじめ』の「謝罪の会」からさらに『いじめ』がひどくなったという。
『いじめ』に対する毅然とした態度を学校は求められるが,
一歩間違えると,学校側が『いじめ』をさらに深刻化するケースがあることを,
教師ならよくわかっている。
「あの教師に,『いじめ』の実態を知らせてはならない」
という同僚がいる学校も少なくないだろう。
「あいつが介入すると,余計にことがこじれる」
「学園ドラマのように熱血的な指導で『いじめ』が根絶できると誤解している」
と思われる教師がいる。
「迅速な対応」は,ときとして「拙速」な指導を生むおそれがある。
教師はこれをおそれすぎて,対応が遅れるというケースもある。
また,教師が「中立の立場」で子どもと接することは,案外と難しいものである。
いつも嘘ばかりついていたり,問題行動を繰り返す子どもが『いじめ』の被害を訴えてきたときに,
「お前は~を『いじめ』たばかりじゃないか」と突き放してしまうようなケースもあるだろう。
今や,かつては「ケンカ」に過ぎなかった暴言や身体の接触は,すべて『いじめ』のカテゴリーに入ってくるから,
「俺(子ども)が『いじめ』られてるって言ってんだから,『いじめ』だろうが!」
とすごむ生徒(保護者)もいる。
生徒をよく見る機会にはなる。
しかし,1人対40人が基本の教室空間で,教師ができることは限られてくる。
学校において,子どもに健全な成長を促すのが教師の役割だが,
その解決にどの程度教師がかかわるべきなのかという議論も必要になってくるだろう。
ある学級では,障害のある生徒が『いじめ』の加害者となった。
このようなケースも,非常に指導が難しい。
被害者と加害者が一夜にして入れ替わっているというケースもある『いじめ』。
下剋上こそないが,
群雄割拠の戦国時代を生き抜く武将たちのせめぎ合いのようにも見えてくる。
異年齢集団で過ごす時間を増やすことなど,
学校の制度全体を見直すきっかけになるほど,『いじめ』というのは
解決が一筋縄ではいかない問題であり,
これがLINEによるママ友どうしの『いやがらせ』ともなると,学校は手に負えないのである。
救世主はいない。
ただ子どものために親身になって相談にのってあげる人間が一人でも多く求められるだけである。
教師だけでも,友達だけでも,家族だけでも解決しないのが『いじめ』であり,
『いじめ』をなくそう,というかけ声だけでは何も変わらないし,
『いじめ』を放置した教師を懲戒処分で脅す,という方法も,あまり効果を発揮しない・・・・
むしろ,戦国の世がさらに混乱するだけだろうと思われるのは,
今,改めて『劉邦』を読んでいるからだろうか。
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