教育の研究者が語る言葉
教育の質の向上,たとえば教員の能力を高めることは,教育現場にとって喫緊の課題です。
決して,短期間に成果が出せるような仕事ではありませんから,現場も研究の立場の人も,粘り強い努力が必要です。
しかし,一部の研究者の中には,自分たちの理念なり信念なりを同僚たちに理解してもらおうとする努力を「するな」という無責任な「お触れ」を出している人がいます。
最近,久しぶりにブルーバックスの1冊を手にとりました。
『研究を深める5つの問い』(宮野公樹著)という本です。
帯には,著者による次のような問いかけが示されています。
>自分の分野以外の人にも響くテーマで研究している?
>なぜ研究者の道を歩んでいる?
>論文の緒言に心底思っていることを書いている?
>「科学」がどのような状態にあるか考えている?
>日頃から研究者としての自分を鍛えている?
膨大な量の実験やそれをまとめる論文を出し続けなければならない科学分野の研究者が陥っている問題点が,そのまま指摘されていると考えられます。
教育の分野の研究者にとってはどうでしょうか。
ある研究者が発している「同志」への言葉は,
「負けるのが嫌い」だから負けない戦いをしろ
「分からない人を説得してはならない」
反対する人間が「つぶしにくる」のを避けろ
「本を出せ」ただし,売れなかったら自分で買い取れ(次の本に影響がでないように)
などという「処世術」に過ぎません。
この研究者だけとは限りません。
教育の研究者が語っている言葉が,単なる「処世術」にすぎないような状況が,全国に広がっているように思われます。
その背景には,「成果を出すこと」を求められているという一面があります。
しかし,「成果を出すこと」が非常に難しい小学校では,
子どもが「楽しそうに学習している」ことだけが教育の質を語る唯一の尺度になってしまう。
気の毒なのは,教師を批判したい側の子どもで,
「どうしてこんなことをやらされているのか」という疑念を抱いた時点で,
子どもは教師から「見捨てられる」ことになり,泣く泣く「楽しく学習している」ふりをせざるを得なくなる。
教育研究者自身,そして教師自身が,自分に何を問いかけ続けていかなければならないのか。
「研究者的思考」ではない言葉に出会うたびに,大事な問いを思い出すことができます。
« 小学校英語とエビデンス(Yahoo!ニュース) | トップページ | 子ども時代に「教師絶対主義」が教師を志す問題点 »
「教育」カテゴリの記事
- 教員になりたての人がすぐ辞める理由(2019.01.12)
- 教育は「願ったもの勝ち」「言ったもの勝ち」ではない(2019.01.08)
- 「一人も見捨てない」は罪な要求である(2019.01.04)
- 列で並ぶこと自体が好きな?日本人(2019.01.01)
「教育改革」カテゴリの記事
- 改正教育基本法第16条の問題点(2018.12.28)
- 今,手を抜いていると,公教育の民営化が本格化したとき,・・・(2018.11.24)
- 国後島で考えたこと~日本の教育(2018.10.02)
- 都合の悪いことに目を向けさせなくする教育(2018.09.08)
「リーダーシップ」カテゴリの記事
- ネガティブ・ケイパビリティ~解決困難な問題に正対し続けられる資質能力(2017.12.04)
- マリオが総理大臣ならピカチュウを防衛大臣,ハローキティを外務大臣に(2017.12.02)
- 「大人になったら教師はいなくなる」は大間違い(2017.11.27)
- 準備体操なしで全力疾走させるような授業はアウト(2017.11.26)
- 教師の成長力を奪う力(2017.11.19)
「ブログネタ」カテゴリの記事
- 「大人になったら教師はいなくなる」は大間違い(2017.11.27)
- 歴史用語半減による「ゆとり」が生むもの(2017.11.19)
- 「功を焦る子ども」に成長が阻害される「弱者たち」(2017.09.26)
「教職教育」カテゴリの記事
- 「総合的な学習の時間」の指導ができるように教育できるのはだれか(2019.11.24)
- 生徒との対話の中から自然に目標達成へのルートをつくる(2018.12.26)
- 私でなくてもいい,私ではない方がいい(2018.12.14)
- 現実的な教育内容や教育方法の議論がなぜ小学校や高校では役に立たないか(2017.12.29)
- 日本の教育に欠けている「適時的で適正な評価」の発想(2017.12.25)
「仕事術」カテゴリの記事
- ネガティブ・ケイパビリティ~解決困難な問題に正対し続けられる資質能力(2017.12.04)
- 準備体操なしで全力疾走させるような授業はアウト(2017.11.26)
- 歴史用語半減による「ゆとり」が生むもの(2017.11.19)
- 教師の成長力を奪う力(2017.11.19)
- 成長をとめないために(2017.11.18)
「教師の逆コンピテンシー」カテゴリの記事
- 遠慮しないで情報を提供しろ!~いじめを見逃す環境との戦い(2018.12.29)
- 偶然の重なりと緻密な演出~インスタレーションから受けた刺激(2018.12.22)
- 子どもから有能感を奪い取る方法(2018.11.25)
- 量より質が大事なものと,質より量が大事なものとは?(2018.04.23)
- 現実的な教育内容や教育方法の議論がなぜ小学校や高校では役に立たないか(2017.12.29)
「教育実習」カテゴリの記事
- 現実的な教育内容や教育方法の議論がなぜ小学校や高校では役に立たないか(2017.12.29)
- 日本の教育に欠けている「適時的で適正な評価」の発想(2017.12.25)
- 鉄道トラブルと学校教育の劣化の共通点(2017.12.23)
- ネガティブ・ケイパビリティ~解決困難な問題に正対し続けられる資質能力(2017.12.04)
「教員の評価」カテゴリの記事
- 私でなくてもいい,私ではない方がいい(2018.12.14)
- ペーパーテストだけで「評価」ができる「教科」はない(2018.05.26)
- 子どもの人間関係に対する不感症の影響力(2018.03.28)
- 自分のダメさを完全に棚上げできる才能の伝授(2017.12.29)
- 現実的な教育内容や教育方法の議論がなぜ小学校や高校では役に立たないか(2017.12.29)
「教員研修」カテゴリの記事
- 現実的な教育内容や教育方法の議論がなぜ小学校や高校では役に立たないか(2017.12.29)
- 日本の教育に欠けている「適時的で適正な評価」の発想(2017.12.25)
- 鉄道トラブルと学校教育の劣化の共通点(2017.12.23)
- ネガティブ・ケイパビリティ~解決困難な問題に正対し続けられる資質能力(2017.12.04)
「『学び合い』」カテゴリの記事
- 「一人も見捨てない」は罪な要求である(2019.01.04)
- 生徒との対話の中から自然に目標達成へのルートをつくる(2018.12.26)
- 子どもから有能感を奪い取る方法(2018.11.25)
- 人間の醜さを露呈させる教育方法(2018.01.15)
この記事へのコメントは終了しました。
« 小学校英語とエビデンス(Yahoo!ニュース) | トップページ | 子ども時代に「教師絶対主義」が教師を志す問題点 »
コメント