受験で小学生にかかる負担の重さは中高生の何倍?
私自身も経験した小学生の中学受験というものは,ほとんどが親の意向によって決められます。
私の時代は日曜日のテストだけ,本人に任せっきりというパターンも多かったと思いますが,
今はテストのための塾に通うのが当然となり,多量のプリントや問題集をどんどんわたされ,塾の宿題を家でやらなければついていけない仕組みになっています。
習い事をさせられる家庭の子どもでも,自由な時間がほしいはずですが,そんな時間はなくなります。
親に対してはもちろん,「自分の考え」の構築が未熟な子どもたちは,大人の意向に左右される人生のスタートを送り始めるわけです。
東京都立川市で「いじめ聴取」のために指紋を採取されたのは小学校6年生ですか。
詳細は報じられていませんが,採取に際してどれほどの抵抗があったのでしょう。
今回の記事の話題は「中学受験」です。
子どもにとって,「中学受験」のための負担はどれほどのものでしょうか。
親にとっての経済的負担の話は別の機会にまわします。
生々しい競争原理のもとで「進学実績」を競い合う業者やそこで働く従業員たちにとって,
「成果」が残れば残るほど,費用はいくらでも親から吸い上げられます。
その費用を使って,無料の学力テストまで実施できるほどに。
私立学校などは,「進学実績」づくりのために,経済的に困難な家庭の「優秀な子ども」を受け入れることもある。
「ただにしても儲かる仕組み」ができる業者というのは,おいしい業種と言えます。
さて,子どもの立場で「中学受験」を考えたとき,これを「高校受験」や「大学受験」と比べると,その負担はどの程度のものになるでしょうか。
そして,その負担は,当人にとって本当の意味での「ため」になっているものなのでしょうか。
中学受験のハードさ,ハードルの高さは,入試問題を見るだけでわかります。
小学校の授業を受けているだけでは,全く対応できません。
公立高校の入試問題よりも難しい問題に,小学生は取り組んでいます。
過去の多くの学校の問題分析によって,解法はパターン化され,
算数などは非常に「きれい」に整理されています。
これを小学校3年生くらいから,「系統的」に学ぶわけです。
学校では,「割り算の正しい概念を習得する」などといって,ブロックを作って並べてみたり,紙を切ってみたりと,時間をかけて「アクティブ」に学んでいる。
学校でそれをやっているときには,すでに頭の中で立方体の切り口とか展開図が思い浮かべられるようになっている小学生がいるのです。
具体物など使わなくても,すらすら数量や図形の問題の解法イメージができてしまう子どもたち。
楽しい活動を小学校で行うことが,本当に子どものためになると考えている小学校の教師も,一部にはいることでしょう。勉強ができない子どもでも,自分の考えが発表できる。何とすばらしいことでしょう。
ただ,中学校1年生くらいまでは,「自分の考えを堂々と述べられる」子どもが授業でそれなりに活躍できる場がありますが,中学受験を経験した子どもからは,みるみるうちに差が開いていきます。
小学校教育を研究する人たちは,中学受験には興味はありません。
そんな難しいものを教室で理解することが困難な子どももたくさんいるからです。
「全員を見捨てない」などと言っているということは,実際にはかなりの子どもが見捨てられている状態になっていることを,外国人ならすぐに気づくでしょう。日本で「すずめの学校」に引きこもっている人間からは想像もつかないことでしょうね。
今,自分が教えている子どもたちが,
「本当は」どこまで理解が進んでいるのか,何ができるのかを知っておいてもらうことは決して無駄なことではないでしょう。
外国では,「飛び級」させてもよい子どもがぞろぞろいる学校があるわけです。
ただ同時に,その子どもたちがどれほどの苦労をしているかということにも,思いをはせてほしいというか,同情してほしいものです。
こう言ってしまうと失礼かもしれませんが,中学受験を経験されたことがない先生には,理解できないことかもしれません。
でも,小学生でそろばん何段,と言われて,その子の技能を一度見れば,似たような「すごさ」を実感してもらえるはずです。
小学生にとって,学校の教師に白い目で見られるつらさが加わることだけは,なくなってほしいと思います。
中高生の話がないから,結論が見えません。
中高一貫校に中学受験で合格してしまう子どもには,高校受験がありません。
ある高校の先生は,「中学校から入ってきた生徒の中だるみが気になる」といい,
別の高校の先生は,「高校から入ってきた生徒が追いつけないで困る」と嘆く。
公立の中高一貫校が増えていますが,「二極化」の進行は,日本の将来に何をもたらすのでしょうか。
ほとんど試験の成績のみで決まる「中学受験」のあり方を根本から変えることが,
まずは見直すべき課題でしょうか。
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