出遅れ組の研究者の出番
学習指導要領の改訂に向けての動きが本格化する。
私の印象では,「ゆとり教育」スタート時の「出遅れ組」の出番になろうとしている。
最近の話題であるグローバル教育や10年前からのESDの関係で,「21世紀型学力」などと
呼ばれ始めている教育論は,すでに平成10年公示の学習指導要領に織り込まれていた。
授業論にしても同様である。
現場では,それが十分に実現できないできた。
「理想と現実」の違いを最も強く実感しているのは,中高の現場である。
教員たちは「入試があるからだ」と言い訳しているが,
入試がない小学校でできていないのだから,仕方がない。
むしろ,入試がない小学校で成果が出ていない教育方法を,
中高にまで広げようとする方針には,現場からの強い異論が出てくるだろう。
中高で「入試がない」という時代はなかなかこないだろうが,
改訂された学習指導要領どおりに実践し,
入試制度が変わって,きっと再び頭をもたげてくるのは「学力低下」問題である。
「結局,力がついていないこと」の方がより明らかになるだろう。
ときのたつのは早いもの。
20年してまた亡霊がよみがえうとしている。
20年以上前に耳にした授業論を,今日はある学校の講演で久しぶりに出会った。
20年間に出番がなかった研究者が,20年前と似たような話をし出している。
そこに加わった味付けは,ダイバーシティとか,「異質なものとの共生」などという
日本の学校現場では,ほとんど実感できないタイプの価値観である。
英会話を重視しようとする英語教育よりもやっかいな存在になるだろう。
「みんな違ってみんないい」という話を,イスラム国がしていることを目の前にして叫ぶのは難しい。
日本の教育改革の振り子のゆれは,研究者たちに
「順番に出番を与える」ことに終始しているせいだが,
何十カ国の授業を見て,「日本の授業は異質だ」といってみたところで,
「異質なもののよさを重視しようとしている」自分の姿勢との矛盾にさらされたら何と答えるのだろう。
大学の世界では,「師匠」「恩師」に楯突くことができない。それが最大の「支障」になっている。
私が言う必要はないが,日本の教育の良さは,現場の優秀な教師が支えている。
今,問題は,優秀な教師をつくりだすための教育を支える大学の基盤がもたなくなっていることだろう。
教員養成系大学の方が,その危機感が強いのではないか。
教員養成系以外の大学を出た教師の方が現場で実力を発揮している実態がもし明らかになれば,
だれがどのような責任をとってくれるのだろう。
学校現場の課題は,小規模化で,校内で若い教師を育てる力と余裕のあるベテラン教師が減っていることにある。解決策は単純なものである。適正規模を守る(超過疎地域を除く)ことである。
「学び」の他律性より自律性を,伝導型よりも探究型を,などと言っているが,
まず大学の授業でそれを実践し,「優秀な人材」に育ててから,ものを言うようにしていただきたい。
大学の授業の実態は,今,「教え方を大学教師が学ぼうとしている」レベルである。
話にならない。
この国の教育関係の学会では,大学生にやろうとしても無理な教育を,
「小中高でやっていなかったからだ」と言って,押し付けようとする傾向がある。
話が逆であって,現場では「大学の研究者は役に立たない」という印象の方が強い。
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