大学入試改革の廃案と高校授業改革の全面的強化
中央教育審議会が答申した大学入試改革案について,各方面から期待や困惑の声がわき起こっている。
これまで教育界では,「入試が変わらなければ教育(授業)は変わらない」と言われ続けてきたため,知恵が絞られて「入試改革」・・・それも,本格的な「改革」らしい「改革案」が出されたようだ。
しかし,その「実現不可能性」はだれにでも証明できそうなものになっている。
「困惑」というのは柔らかい表現だが,「大迷惑」というのが高校の現場の本音だろう。
「また新しい受験対策をやらされるのか」という気持ちが支配的であることが想像される。
教育産業(予備校)にとっては,新たなビジネスチャンス到来,ということで,強制的な需要の拡大に胸を躍らせながら,実は「どうやったらいいのか」とこちらも頭を悩ませ始めているに違いない。
一度実現されたら,その内容をもとに合格への「最短距離」を探すようなノウハウを持っているのが自慢なのだろうが,中教審答申が求めているのはそんな生半可な能力ではない。下手をすると,存在意義が失われる恐れもあることに気づいている教育産業の人はどのくらいいるだろうか。
私が卒業した高校のように,受験対策のようなものはいっさいせずに,大学のように先生が教えたいことを教えていただけのところは,対応のしようがあるかもしれないが,そうではない教師たちにとっては,想像もつかないような入試改革案が持ち上がっている。
私の考えはこうである。大学入試改革そのもの自体を変えることは,非常に困難である。
もし実現させようとしたら,大学のみ,9月から新学期が始める制度にしなければならない。
大学入試に5か月間かける仕組みである。
これならできるかもしれないが,大学にそこまでの体力があるかどうか。
あまり現実的ではないから,別案が必要である。
どうするかといえば,高校の教育課程の管理を徹底的に行って,中教審が答申した,大学入試で求めているような力を高校で徹底的につけさせ,厳密に評価する仕組みをつくることである。
予備校の授業に毛がはえた程度の授業は「禁止」とする。
教科書をただ読んだり,プリントの穴埋めをさせたりするような授業も「厳禁」とする。
コピペではすまされない手書きのレポートをたくさん課し,授業では議論させたり,フィールドワークさせたりして,発表形式の内容を多く導入する。
「思考力」「主体性」「協働性」が実際に評価できる授業に「大改革」させるわけである。
実は,小中学校の授業の何%かは,このようなかたちに随分と移行しているのである。
しかし,「知識が乏しくなる」という理由をもとに,相変わらずの「単純型一斉授業」も多いわけだが,「思考力」を育成するための授業を行えば,核となる知識もしっかりと定着することが証明されている。
高校の授業を変える。それだけで,相当に「学力」は向上するはずである。
授業改革なくして,入試改革はあり得ない。
日本経済新聞の記事では,1月5日の『能動的学習へ転換を 中教審,大学入試改革で答申・・・安西祐一郎 中央教育審議会会長』が参考になる。
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