教育の世界の「お膳立て」をしてくれる人たち
教員はとても自由に仕事がこなせる職業であることは,さまざまな事件を通して明るみになる。
ある小学校教師は,親にお金を出させて購入し,子どもに解かせたワークテストを家に持ち帰ったまま,採点もせずに放置していたことが報道されている。
中学校現場の場合には,学級担任だけでなく,学年主任や同じ教科の教員など,教科指導に関する情報がかなり入ってくるから,教師は手が抜けない。何より,生徒が直接言ってきてくれるから,教員側の問題というのはすぐに見つかるのである。
小学校ではどうやらこうはいかないようだ。
そもそも,時間割通りに授業が行われているかどうかのチェックを「週案」できちんとできているかどうかも疑問である。
私の娘が通っている小学校では,「連絡帳」に必ず次の日の時間割を書いてくるから,これを集計すれば,道徳を年間何時間行ったか,各教科ごとの時数はどうだったかなどがわかる。しかし,校長がそれを把握していたら,まずいことになるのだ。「虚偽の報告書」を教育委員会に提出していることがばれてしまう。
小学校ではこんな例はいくらでもある。
中学校のように,試験範囲が決まっている場合は,こういう勝手なことはできないのである。
この記事で書きたかったことは,教員というのは,だれにどのような「感謝」をして仕事に臨むべきか,ということである。
だれが,自分の仕事の「お膳立て」をしてくれているのか。
ワークテストのような教材は,教材会社があり,販売店があり,運送業者がいるから学校に届く。そして,その代金は税金ではなく,親が負担している。
こういう「お膳立て」を書き始めると,きりがないことがわかるだろう。
毎日の給食にしろ,運動会にしろ,宿泊行事にしろ,自分一人ではできない「お膳立て」はいくらでもある。
教員になると,実際には「お膳立て」の側にまわることもたくさんある。
そして究極の「お膳立て」役は校長ということになる。
教員は,4月1日に着任したら,まず教育現場を支えている「お膳立て」の数々を自分の目で見て,それをしてくれる人に感謝する習慣をつけるところから仕事を始めてほしい。
そして,4月2日から,学校には朝一番に通勤し,職員室の机の上をふいたり,床のゴミを拾ったりすることから朝を始めるべきである・・・・という「しつけ」を教えてくれる校長はどのくらいいるだろうか。
ちなみに,教育委員会というところでは,これは常識である。
教師が授業で使用するチョーク1本の値段を知っている人はどのくらいいるだろうか。
学校が年間に使用する紙の枚数と総額を言える人はどのくらいいるだろうか。
学校の電気代と水道代は,年間いくらか。
教員は,着任時だけでなく異動時にも,生徒数だけでなく,このような数字も知っておくべきである。
そして,それが税金によってまかなわれていることを自覚するべきである。
津波の被災地の学校のことを想像してみていただきたい。
教師と子どもが教室で学んでいる環境というのは,偶然の賜ではない。
多くの努力がその前提として存在しているのである。
指導力不足の教員の多くに欠けているものとは,
実は指導力そのものではなく,こういう「偶然には生まれないこと」への豊かな感性なのである。
教員のなかに,このような感性が欠けている人が少なくないことが,
実は「常識知らずの教員」「世間知らずの教員」イメージを増幅させている主な原因なのである。
大切なのは,校長による「初期指導」である。
と同時に,校長による「お膳立て」である。
率先垂範のうち,最も重要なのは,「全体の奉仕者」としての公務員の姿である。
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