人生の登山に頂上はない。もちろん,学校にも。
吉川英治の『宮本武蔵』では,人生を登山にたとえた次のような言葉が紹介されているようです。
>登山の目標は山頂と決まっている。しかし,人生の面白さはその山頂にはなく,かえって逆境の,山の中腹にある
山頂が全く見えない状態で長い道のりを歩いた経験がある人はわかるでしょうが,
目標地点が見えない登山は,時に心が折れそうになるときがあります。
登山には,「途中で下山する」選択肢が可能ですが,人生ではそうはいきません。
教育にたずさわっている仕事をしている人で,
「途中で下山した」経験を持っている人は少なくないでしょう。
犯罪行為がもとで,「滑落」した人もいるでしょう。
教員ならよくわかっているでしょうが,子どもたちが成長する場である学校という「山」も,決して楽に登れるところではありません。
教師だけ登って,子どもが登山口に置き去りにされている学校もあれば,
逆に,子どもだけ登らせて,教師は茶屋でゆっくりくつろいでいるという,修学旅行のような学校現場もあるでしょう。
子どもにとって,小学校なら小学校の卒業式が「山頂」といえるかもしれませんが,
みんな縦走しているんですよね。中学校や高校という「連山」が待っている。
教師の方は,登山ガイドのように,同じ山をずっと登ったり下ったりしているようなイメージでしょうか。
いいえ,そんなことではいけませんよね。
子どもに「山」を用意するのは教師たちです。
1日で乗り越えることができる「小山」もあれば,
乗り越えることが不可能に見える「崖」もある。
垂直な壁を目前にして,すぐにあきらめるような子どもに学校はしてはならないのです。
人は,それぞれに目標を立てることができます。
目標を達成することができた時点で,「山頂」らしき場に到達した気になるかもしれませんが,
そこにいても人間にとっては孤独なだけですよね。
どんなに偏差値が高い学校に入学しても,自分より優秀な人間が周りに増えただけ,ということです。
学校に頂上も頂点もありません。
人生の登山には,もちろんですが頂上はありません。
死を迎えるときですら,高い嶺を遠くに臨みながら息を引きとりたいものです。
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