学会での質問の「大失敗」
教師の力量は,「質問力」によっても測ることができる。
教師は授業で多くの「質問」を子どもに投げかけるが,
そのねらいは子どもから「良さ」を引き出すためにある。
「理解していること」を理解させるための質問もあるが,
私が意図的に発しているのは「隠された能力や意図」を引き出すものである。
しかし,時として,「隠された無知」を引き出してしまう場合もある。
相手をよく知らない場合に,この忌まわしい機会が訪れる。
先日の学会でやってしまったのは,次の質問である。
相手は小学校の先生だった。
「あなたは,アジア・太平洋戦争に関連のある忠魂碑を教材化するために,多くのフィールドワークをされてきたと思う。そこでは,先生自身が疑問に思ったことや,小学生ではなく,中学生なら,このようなことを疑問に思うだろうと考えたことがあったはずである。そのような,小学生には期待できないような疑問は何でしたか。」
と私は質問した。
その答えが,「なぜ男性の名前ばかりが刻まれているのだろう」だった。
実際,そのような疑問をあげる小学生はいなかったということである。
当たり前だろう。
質問はしない方がよかった。
かなりの時間を要して,戦争の実態にせまるような「追究活動」をされたようなのだが,「肝心なところ」というか,「常識」にあたる部分が強烈に欠落しているのが小学校の社会科の特徴である。
他の発表にもあったことだが,「小学生が疑問から疑問へ,次々に課題を発見し,解決していけたのでよかった」と述べ,無計画なようではあるが,そのように主体的に学習が進めたことを誇りにしているようなムードがひしひしと伝わってくる。
ぜひ小学校には,バカロレア風の評価を導入してほしいと願う。
「アジア・太平洋戦争」に何時間もかけられるなら,不可能ではあるまい。
小学校の授業は,「みんな」で学習しているように見えて,実はリードするごく一部の児童のほかは,みんな「フリーライダー」である。あいづちを打ってさえすれば,「学びの一員」らしく感じてもらえるのだ。
何かが「できる」ようになっているかどうかを,個人的に面談をして,語らせる時間は小学校ならいくらでもあるだろう。
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