道徳教育の真の恐ろしさ
多くの小中学生は,「道徳の時間」が苦手というか,嫌いです。
多くの教師も,その時間の指導には苦労しています。
真の価値は言葉ではなく,体験を通して学ぶ,という当たり前すぎることが,
限られた1週間のうちの50分の「道徳の授業」ではできないわけですから,
当然,「ふりかえり」や「見通し」のための50分になりがちです。
私が今日,道徳教育の「恐ろしさ」について簡単にふれておきたいのは,
「子どもは教師の誘導にのりやすい。当然,素直な子どもほど。」
という,これも当たり前すぎることを前提にした話です。
教師がもっている価値観なり社会観なりは,
それなりに生徒に「転移」します。
しかも始末に負えないのは,教師が一時的に強い感情を込めて
語るような内容が,・・・・実は教師にとっては一時的な感情なのですが・・・・
子どもにしっかりと刷り込まれることがあるのです。
ある人が,
「土地の私有はおかしい」という感想を述べたものとします。
「資本主義の国なんだから,おかしいもんか」と
だれでも反論したくなる話でしょう(日本などでは)。
しかし,ある一定の長さのストーリーのなかでふれられた言葉だとしたら,
そういうわけにもいかなくなるのです。
私が知っているのは,「福島」や「水俣」の問題を考える際のことです。
そもそも,この地球表面の一定の範囲を,一人の個人が独占できるという傲慢さが,
信じられないことである・・・・なんていう話に中学生なら乗ってきてしまう
危険性のあるストーリーがあるのです。
人間の傲慢さを戒めようとする題材が,本来あってよい価値観を破壊するおそれがあるのが,
道徳教育の恐ろしい一面です。
私有財産制はいかがなものか,などという思いに導くストーリーに
日本人を浸らせないための占領政策がどのようなものであったか,
戦後の歴史に詳しくない人でもご存じでしょう。
このような例は,道徳教育の場合,いくらでもあるのです。
国は,だからこそ,「検定済教科書」が出せる方向性に進もうとしているのでしょう。
もちろん,そういう教科書によって,
「いざというときは,国のために命を投げだそう」
と思う子どもが増えるかどうかはわかりません。
「道徳教育」に反対がある人はいないのです。
しかし,「道徳教育」に危険性があることを感じている人はたくさんいるのです。
現在の道徳の時間も同じなのですが,
何がこういう問題を解決してくれるのでしょうか。
一番よいのは,「記録ノート」をつくることです。
固く言えば,「議事録」のようなものです。
ただし,発言した生徒名や,発言に出てきた生徒の個人名はふせておきます。
教師の話が多くなる場合もあるでしょうが,そのポイントを生徒がメモしたものを,
学級日誌のような形で残しておくことを義務づけるのがよいでしょう。
基本的に,この内容を自由に閲覧できる仕組みをつくることが,
「道徳教育」への不信感,不安感を払拭してくれることになるでしょう。
「道徳の指導記録」をしっかりと持ち続けている教師はどのくらいいるでしょう。
他人がつくった計画だけが,ただファイルに綴じ込まれている,
なんていう仕事術では,きっと指導要録の内容も信頼性に欠けるものになってしまいます。
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