保護者を納得させる授業
学校で授業をつぶして業者テストを実施していた時代を経験している親が増えてきている。
今は実施されていないが,かつてはそれが当たり前だった。
学校の定期考査の成績よりも,業者テストという「標準テスト」の信頼性の方が高いというのが私立学校側の言い分である。
業者テストがあるから,教師も生徒も,そのテストに出そうな問題が解けるように準備する。
中学校では,まさにそのためだけというような授業がまかり通っていた時代があった。
教員も,自分が受け持っていたクラスの偏差値の高さを競い合う。
それで一定の学力が保障されていたのかというと,実はそうではないことがわかっている。
今でも学校では実施しないが,業者テストの偏差値による高校選びという習慣は残っており,
結果として,学校にもそういうテストで高得点がとれるような授業を行うことを求める親が多いらしい。
親の要望とは,
できるだけノートをたくさんとらせてください。
できるだけ小テストをたくさん実施してください。
できるだけたくさんの知識を身に付けさせて下さい・・・・。
本音は,
業者テストで高得点がとれるようにして下さい。
こういう要望のもとで,
自分の考えをまとめて文章にしたり,発表したり,話し合いをしたりするような授業は
教師たちも敬遠するようになる。
子どもたちが,こんなのより,「教え込み」の方が良い,なんて考えをもつようになる。
こういう悪循環が今でも残っているのが中学校現場の課題である。
こういう授業を社会科でしてしまっていては,
観点別学習状況の評価などは一切行うことができない。
思考力も表現力も磨くことはできない。
入試が変われば授業が変わるというが,
入試がなくなるわけではないだろうし,
入試問題の質が劇的に向上することも考えにくい。
くだらないテストばかりでも,「志望校に合格したいから」という理由で,
見かけ上の「学習意欲」が高い生徒はいる。
評価が本来の目標となる対象を破壊する,最もわかりやすい例である。
本当の学力がつく授業を実際に受けたことがない保護者には,なかなか想像もつきにくい話かもしれない。
授業で教師と自分が「議論」した記憶がある人はどのくらいいるだろうか。
本音でクラスメイトと授業中に「議論」した経験がある人はどのくらいいるだろうか。
一度も発言をしたことがない(発言による評価を受けたことはない)が,
成績はよかった,という人は,本来一人もいないのが学校の評価の仕組みなのだが,
そうでもない状態が見られるのかもしれない。
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