予算獲得のための「新政策」より重要なこと
新しい世の中の動きに素早く反応して,適切な対応を行わなければならない仕事がある一方で,
そのような動きに翻弄されずに,足もとの問題を地道に解決していかなければならない仕事もある。
後者の代表は教育である。
外交は,一見すると前者に属するように思われるが,地道な交渉が大事ということを考えると,常に変化にばかり目を配って右往左往してはならないから,教育に似たような面がある。
残念ながら,国の政策では,「今までのものをしっかり実現させること」は人間の努力によるものであり,
カネをかけるべきものは,「何か新しいもの」という信仰があって,多くは無駄遣いという結果に陥っていく。
教育政策のトップに求められる資質というのは,ほかの分野で言えば外交に近いと思われる。
とにかく長いスパンでの国益の追求が求められる分野である。
とりあえず必要そうな新しい種をまく,というのも大事だが,そこばかりに目がいってしまうような政策をしていては,やがて民間のパワーの方にたよらざるを得なくなる。
日本の場合,国が教育に予算をつぎ込まなくてもいいのは,
民間のパワーへの信仰が高いからであり,そこにお金をかけるだけの経済的なゆとりが国民にあるからである。国家予算に占める教育分野への支出(多くは人件費だが)の割合が低いことは,国民や民間の教育がパワーをもっているからである。
外交の仕事ですら,民間のパワーが輝くことがあるが,やはり外交は国の仕事である。
会社の利益よりも,国の利益のためにはたらいてほしい。
教育の分野で,会社の利益のためのはたらいている人を頼った方が,
国の利益のためにはたらいている人を頼るよりも自分のためになる,
と考える人が増えることは,教育だけでなく,外交などの面でもマイナスになる可能性がある。
「ゆとりのなかで生きる力を育てる教育」がもてはやされたとき,
すかさず「学力低下」を問題視し,
国の利益のためにはたらいた人を叩いたのは,民間のパワーである。
そして,民間の仕事が増えていった。
近視眼的に見れば,その方が多くの人にとって,プラスになる。
しかし,長い目で見て,この傾向が続くことが,どのような結果を招き,
それがどれだけ日本にとってマイナスなのか,それを語るべきであるのが教育行政のトップである。
今のままでは,郵政民営化のような事態が教育分野でも起こりかねないし,
その方がいいのではないか,という人が増えている段階に来ている。
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