決まりは守らなくてよいことを教えてしまった教師
昨晩,会って話をしていた大学生の教え子は,体育会の部のマネージャーをしている。
この部では,週に何回も朝練がある。その遅刻者には,5000円の罰金が科せられるという(滞納者もいるとのこと)。
遅刻者を減らす効果は高いだろうが,あまり「教育的」ではない。
さて,次に紹介する話は,長くこのブログを読んでいただいている方には,「おなじみの話」である。
ある中学校で,部活動の「遅刻者」をめぐって,信じられない結果になった事例を紹介してくれた人がいた。
1人の「遅刻者」以外の全員は,時間を守って集合していた。
指導者が「遅刻者」に「どうして遅れたんだ」と聞いたところ,
「集合時間が早いから」と答えたらしい。
指導者は何を思ったか,「何時なら来れるんだ」と聞いたという。
さらに,何を血迷ったか,部員全員に,「全員が集まれる時間を決めろ」と指示した。
驚いたことに,部員たちは,「時間を遅らせれば遅刻者はいなくなる」と判断してしまい,
「集合時間を遅らせる」という決定をした。
きっと,集合時間が朝早いことが苦痛だったはずの生徒も,がんばって登校していたのだ。
しかし,「遅刻者」のおかげで,堂々と遅い時間に集まればよいことに変更になった。
喜んだことだろう。
時間を守らなかった部員のおかげで,「集合時間」の決まりが変わったのである。
これこそが,「決まりは守らなくてよい」ことを生徒に教える「指導」である。
指導者は,「話し合いで自主的に決めた時間に意味がある」と思っているらしい。
ちょっと待て,という話である。
「決まりを変えた」きっかけは,「決まりを守らなかった生徒がいたこと」である。
そして,結果として,「決まりを守らなかった生徒に配慮した決まり」が決定した。
こんな経緯で成立する「決まり」に,「自主的に決めたこと」の意義を感じる人がどのくらいいるのだろうか。
どう考えても,決まりを変更するきっかけが最悪である。
そして,できた新しい決まりも,最低である。
「全員が遅れない時刻を設定しろ」なんて指示をする人間はどうかしている。
中学校では,こんな「指導」はあり得ない。
「用事があって遅れる人は,事前に連絡しなさい」ですむ話である。
肌感覚として,これはさすがの小学校教師でも違和感を覚えてくれるはずだろう。
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