数字に興味を持ち,自ら考えられる子どもを育てよう
社会科の教員で,「国勢図会」を活用していない人はいない(と願いたい)。
教科書や地図帳に出ている統計資料だけで満足していては,定期考査の問題もつくれないし,入試問題の予想もできない。
以下,『日本国勢図会』の紹介をした読書編から,転載する。
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「読書」向けの本のようには見えないかもしれないが,この「日本がわかるデータブック」によって,ある程度の世界の情勢もわかる。
もし子どもに「日本の兵力は?」と問われたら,「第39章 国防と自衛隊」の図を見せてあげればよい。
そうすると,自然に周辺各国の兵力も目に入ってきて,子どもは「比較」するようになる。
日本 14万人
中国 160万人
北朝鮮 100万人
韓国 52万人
小学校5年生になると,「割合」を算数で習うが,「割合」という考え方がどういう意味をもっているかを,「国の兵力」をもとに実感させることができる。
「国の人口の何%にあたるか?」という疑問がわくようになれば,「割合」の意味を理解し,それを求める計算作業も自然と身についていくと考えられる。
人口で割った数字は,
日本 0.1%
中国 0.1%
北朝鮮 4.1%
韓国 1.1%
となる。
歴史に興味のある子どもで,江戸時代の人口に対する武士の割合を知りたくなったら,
教科書で探させてみてもいい。答えは「7%」である。
データは,使い方を間違えるとたいへんなことになる。
「割合」の扱い方に慣れていない小中学生は,割合の数字だけを見せられて,
「日本の中国の~は同じだ」などと誤解してしまうことがある。
だから上には書いていないが,割合を求めるための数字(ここでは人口)を示してあげることが親切であろう。
また,上記のように「軍事力」を題材に算数や理科を教えていたのは戦時中の教科書だった。
「刷り込み」になるのも恐ろしい話である。
さまざまな分野のデータを網羅し,企業人にもヒントを与えてくれるのがこの本の特徴と言える。
小中学生向けの話ではないが,企業の統計における「付加価値額」とは何か,ご存じだろうか。
経済学の専門家なら知っているかもしれないが,以下のように求められる。
付加価値額=売上高-費用総額+給与総額+租税公課
つまり,営業利益と税に人件費を加えたものである。
売上額に対する付加価値額の割合を付加価値率という。
企業全体では,18.6%という数字となる。
付加価値率が最も低い業種は,卸売業,小売業の10.6%。
これは業種の性質からも理解可能であろう。
同様に,付加価値率が最も高い業種は教育,学習支援業の46.9%である。
付加価値額で両者を比べると,
卸売業,小売業 42兆円
教育,学習支援業 6兆円である。
両者とも,「逆転の発想」で利益を上げている企業がある。
政治の世界の統計もある。
衆院選の投票率(選挙区)は,
第43回(2003年11月) 59.86%
第44回(2005年9月) 67.51%
第45回(2009年8月) 69.28%
第46回(2012年12月) 59.32%
と推移していることが示されている。
2009年の衆院選で勝利し,与党となった民主党だが,2012年の選挙では公示前の230議席から,1998年に結党した時の議席数93を下回る57議席へと激減してしまった。
自民党が圧勝した衆院戦は,この4回のうちでは最低の投票率となっており,
民主党への失望は,日本の政治への失望に拍車をかけたものという見方もできる。
「憲政の常道」と呼ばれた1925年から32年までの政党政治は,国民からそっぽを向かれて終わりを迎えてしまった。
こういうことが起こらないことを心から願っていたい。
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