小学校社会科学習指導要領補説=昭和23年 に示された社会科の目標
まずは,私の方で太字にした箇所にご注目ください。
整理しやすくするように,一部,改行も施してあります。
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(第一章 序説より)
第二節 小学校の教科課程と社会科
小学校の教科は学科分立の組織では十分にその教育の目的を達成することができないので、しだいに生活経験の総合的な発展をめざす新しい教科課程にうつりかわろうとしています。従来の修身・地理・歴史にかわって、社会科が生まれてきたのも、その線にそってであります。このことがはっきりすれば、社会科と他教科との、関連も、社会科の本質も、正しくとらえることができるはずです。学習指導要領と多少重複しますが、以下に社会科の目標、内容、学習の系統および方法に分けて、そのことを考えてみましょう。
一、社会科の目標
社会科の主要目標を一言でいえば、できるだけりっぱな公民的資質を発展させることであります。これをもう少し具体的にいうと、児童たちが、
(一)自分たちの住んでいる世界に正しく適応できるように、
(二)その世界の中で望ましい人間関係を実現していけるように、
(三)自分たちの属する共同社会を進歩向上させ、文化の発展に寄与することができるように、児童たちにその住んでいる世界を理解させること
であります。そして、そのような理解に達することは、結局社会的に目が開かれるということであるともいえましょう。
児童たちが社会的に目を開くためには、社会の根本的諸機能と、それらの機能が相互に関係しあって作っている社会生活全体を、人間らしい生活をいとなみたいという人間の根本的欲求、すなわち人間性に関係させて深く理解しなければなりません。なかでも、社会生活を成立させ発展させている重要な条件として、
(一)人と人との間の相互依存関係、
(二)人間と自然環境との間の相互依存関係、
(三)個人と社会制度や施設との間の相互依存関係、
を理解することが肝要であります。
しかし、りっぱな公民的資質ということは、その目が社会的に開かれているということ以上のものを含んでいます。すなわちそのほかに、
人々の幸福に対して積極的な熱意をもち、本質的な関心をもっていることが肝要です。
それは政治的・社会的・経済的その他あらゆる不正に対して積極的に反ぱつする心です。
人間性及び民主主義を信頼する心です。
人類にはいろいろな問題を賢明な協力によって解決していく能力があるのだということを確信する心です。
このような信念のみが公民的資質に推進力を与えるものです。
社会的に目が開かれていることは、民主社会を建設し維持するのに欠くことのできない条件です。しかし社会的に目のあいていること、社会的な関心をもっていることは、さらに、よい共同生活をするのに不可欠なさまざまの技能や習慣や態度と結合していなければなりません。すなわち
その時々の事態に応じて適切に処理すること、
建設的に協力すること、
他人の権利を尊重すること、
疑わしい意見や正しくない意見とたたかうことなど、
総じて民主的社会の有為な公民として必要な数多くの特性を身につけていなくてはなりません。
社会科は右に述べたような公民的資質の発展を目標とするのでありますから、それが小学校教育の教科課程の中で占める位置はおのずから明らかであります。
学校教育法第十八条によれば、初等普通教育を児童に与えるためには、左の各号に掲げる目標の達成に努めなければなりません。
一、学校内外の社会生活の経験に基づき、人間相互の関係について、正しい理解と協同・自主および自律の精神を養うこと。
二、郷土および国家の現状と伝統について、正しい理解をもつように導き、進んで国際協調の精神を養うこと。
三、日常生活に必要な衣・食・住・産業等について、基礎的な理解と技能を養うこと。
四、日常生活に必要な国語を正しく理解し、使用する能力を養うこと。
五、日常生活に必要な数量的な関係を正しく理解し、処理する能力を養うこと。
六、日常生活における自然現象を科学的に観察し、処理する能力を養うこと。
七、健康・安全で幸福な生活のために必要な習慣を養い、心身の調和的な発達を図ること。
八、生活を明かるく豊かにする音楽・美術・文芸等について、基礎的な理解と技能を養うこと。
これによりますと、小学校教育の目標は有為な社会形成者を作ること、すなわち社会の中での生活を、幸福に、能率的にいとなむのに必要な諸種の理解・態度・能力を養うことにあるということができます。これと前に述べた社会科の目標とを比較してみますと、社会科が小学校の教育目標達成のために重要な位置を占め、そしてすべての教科の主要目標とかたくむすびついていることは明らかです。
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「公民的資質」の「推進力」という言葉は,今読んでもとても新鮮な気がします。
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