学習指導要領はおおまかなことしか示していないので,そこではどのような学習を具体的に展開していいのか教師は分からないし,教科書もつくりにくい。
だから,学習指導要領には,「解説」というのがある。
そこには,教師が教育内容を取り扱う上で,どういうことに配慮すべきかも具体的に示されている。
たとえば,エネルギー問題を考えていくためには,
好きな電気のことだけ詳しく知っていてもダメなのである。
以下に,解説における第1分野の内容の「(7) 科学技術と人間」の内容を引用する。
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(7) 科学技術と人間
エネルギー資源の利用や科学技術の発展と人間生活とのかかわりについて認識を深め,自然環境の保全と科学技術の利用の在り方について科学的に考察し判断する態度を養う。
中学校第1分野では,第2学年で「(3) 電流とその利用」と「(4) 化学変化と原子・分子」,第3学年で「(5) 運動とエネルギー」と「(6) 化学変化とイオン」など,物質とエネルギーについて学習している。
ここでは,エネルギーについての理解を深め,エネルギー資源を有効に利用することが重要であることを認識させるとともに,科学技術の発展の過程や科学技術が人間生活に貢献してきたことについての認識を深め,自然環境の保全と科学技術の利用の在り方について多面的,総合的にとらえ,科学的に考察し,適切に判断する態度を養うことが主なねらいである。
なお,「ウ(ア) 自然環境の保全と科学技術の利用」の学習は,第2分野の「(7) 自然と人間」と関連付けて総合的に行い,自然環境の保全と科学技術の利用の在り方について科学的に考えさせ,持続可能な社会をつくっていくことが重要であることを認識させる。
ア エネルギー
(ア) 様々なエネルギーとその変換
エネルギーに関する観察,実験を通して,日常生活や社会では様々なエネルギーの変換を利用していることを理解すること。
(イ) エネルギー資源
人間は,水力,火力,原子力などからエネルギーを得ていることを知るとともに,エネルギーの有効な利用が大切であることを認識すること。
(内容の取扱い)
ア アの(ア)については,熱の伝わり方も扱うこと。また,「エネルギーの変換」については,その総量が保存されること及びエネルギーを利用する際の効率も扱うこと。
イ アの(イ)については,放射線の性質と利用にも触れること。
ここでは,生活の中では様々なエネルギーを変換して利用しており,変換の前後でエネルギーの総量は保存されること,変換の際に一部のエネルギーは利用目的以外のエネルギーに変換されること,人間は石油や石炭,天然ガス,核燃料,太陽光などによるエネルギーを活用しており,それらの特徴を理解させ,エネルギー資源の安定な確保と有効利用が重要であることを日常生活や社会と関連付けて認識させることが主なねらいである。
(ア) 様々なエネルギーとその変換について
中学校では,電気がエネルギーをもつこと,化学変化には熱の出入りが伴うこと,運動エネルギーと位置エネルギーが相互に移り変わること,化学エネルギーが電気エネルギーに変換されることなどの学習をしている。
ここでは,これらの学習と関連を図りながらエネルギー変換に関する観察,実験を行い,日常生活や社会では様々なエネルギーを変換して利用していることを,エネルギーの保存や利用する際のエネルギーの効率と関連させながら理解させることがねらいである。
例えば,模型用のモーターを発電機として利用し,様々な方法で軸を回転させて発電させたり,太陽電池(光電池)に光を当てて発電させたりして,その電気で光や音,熱などを発生させる実験を行い,それぞれの現象をエネルギーの変換という視点からとらえさせ,日常生活や社会ではエネルギーを適宜変換して利用していることを理解させる。これらを基に,様々な形態のエネルギーが相互に変換されることや,変換の前後でエネルギーの総量は保存されることを理解させる。
その際,エネルギーの変換では,エネルギーの総量は保存しながらも,エネルギーの一部が利用目的以外のエネルギーとなり,はじめのエネルギーをすべて有効に利用できるわけではないことを理解させ,エネルギーの利用効率を高めることが重要であることを認識させる。
例えば,回転しているモーターでは温度が上昇することを扱い,電気エネルギーがすべて運動エネルギーに変わるのではなく一部が熱エネルギーになること,また,例えば,照明装置として白熱電球,蛍光灯,発光ダイオードなどで電気のエネルギーを光に変換する際,照明装置の種類によって効率が異なることを理解させる。
また,熱の伝わり方には,伝導や対流,放射があることを理解させる。放射については,例えば,熱い物体に手を近付けると触らなくても熱く感じることなど,具体的な体験と関連させながら,熱が放射により伝わることを理解させる。
(イ) エネルギー資源について
ここでは,人間が水力,火力,原子力など多様な方法でエネルギーを得ていることをエネルギー資源の特性と関連させながら理解させるとともに,エネルギーを有効,安全に利用することの重要性を認識させることがねらいである。
日常生活や社会で利用している石油や天然ガス,太陽光など,エネルギー資源の種類や入手方法,水力,火力,原子力,太陽光などによる発電の仕組みやそれぞれの特徴について理解させる。その際,原子力発電ではウランなどの核燃料からエネルギーを取り出していること,核燃料は放射線を出していることや放射線は自然界にも存在すること,放射線は透過性などをもち,医療や製造業などで利用されていることなどにも触れる。
また,日本はエネルギー資源が乏しくその安定確保が大きな課題であること,化石燃料には長い年月の間に太陽から放射されたエネルギーが蓄えられていること,その大量使用が環境に負荷を与えたり,地球温暖化を促進したりすることなどから,省エネルギーの必要性を認識させ,エネルギーを有効に利用しようとする態度を育てる。
さらに,今後,環境への負荷がなるべく小さいエネルギー資源の開発と利用が課題であることを認識させるとともに,太陽光,風力,地熱,バイオマスなどのエネルギー資源の利用,燃料電池や新たなエネルギーの開発の現状や課題についても触れる。
イ 科学技術の発展
(ア) 科学技術の発展
科学技術の発展の過程を知るとともに,科学技術が人間の生活を豊かで便利にしてきたことを認識すること。
ここでは,具体的な事例を通して科学技術の発展の過程を理解させるとともに,様々な科学技術の利用によって人間の生活が豊かで便利になってきたことを認識させることがねらいである。
(ア) 科学技術の発展について
ここでは,科学技術の発展の過程について具体例を通して理解させるとともに,科学技術が人間の生活を豊かで便利にしたことを認識させることがねらいである。
例えば,科学技術が著しく発展した産業革命から現代までを中心に取り上げ,化石燃料のエネルギーを利用して連続的に大きな力を取り出すことができる蒸気機関が発明され,産業革命が起こり,工業が急速に進歩したことなどを理解させる。
また,例えば,天然素材を用いていた時代からプラスチックのような合成された素材を利用する時代に変わってきたことなど,素材の変遷を取り上げ,使用目的や用途に応じた機能を備えた素材が開発され,日常生活や社会に役立ってきたことを理解させる。
このような科学技術の発展により,現代社会では豊かで便利な生活を送ることができるようになったことやこれからの科学技術の可能性を理解させる。例えば,資源やエネルギー資源の有効利用,防災,医療,農林水産業,工業,交通及び通信などに科学技術が役立っている平易な例について調べさせたり,エレクトロニクス,ナノテクノロジー,宇宙開発など最新の科学技術を調べさせたりすることが考えられる。コンピュータや情報通信ネットワークなどを利用したり,施設などを見学したりして情報を集め,整理してまとめさせたり,発表させたりすることが大切である。
その際,科学技術の負の側面にも触れながら,それらの解決を図る上で科学技術の発展が重要であることにも気付かせる。
ウ 自然環境の保全と科学技術の利用
(ア) 自然環境の保全と科学技術の利用
自然環境の保全と科学技術の利用の在り方について科学的に考察し,持続可能な社会をつくることが重要であることを認識すること。
(内容の取扱い)
ウ ウの(ア)については,これまでの第1分野と第2分野の学習を生かし,第2分野(7)のウの(ア)と関連付けて総合的に扱うこと。
ここでは,第1分野と第2分野の学習を生かし,科学技術の発展と人間生活とのかかわり方,自然と人間のかかわり方について多面的,総合的にとらえさせ,自然環境の保全と科学技術の利用の在り方について科学的に考察させ,持続可能な社会をつくっていくことが重要であることを認識させることがねらいである。
このねらいを達成するため,中学校最後の学習として,第2分野(7)のウの(ア)と併せて一括して扱い,科学的な根拠に基づいて意思決定させるような場面を設けることが大切である。
(ア) 自然環境の保全と科学技術の利用について
ここでは,我々の生活は,科学技術に依存している一方で,科学技術の利用が自然環境に対し影響を与え,自然環境が変化していることを理解させる。エネルギー資源など,我々の生活を支える科学技術に利用可能な資源は有限であることに気付かせる。
このことから,限られた資源の中で環境との調和を図りながら持続可能な社会をつくっていくことが課題であり,そのために,自然と人間の共存が不可欠であることを認識させる。
第1分野及び第2分野の学習を踏まえ,例えば,エネルギーや物質の利用と自然環境の保全など,科学技術の利用と環境保全にかかわる事柄をテーマとして取り上げ,生徒に選択させるようにする。テーマとして,次のような例が考えられる。
・新エネルギーの利用と環境への影響
・原子力の利用とその課題
・バイオ燃料の利用とその課題
・環境保全と資源の利用
このようなテーマを設定して調査を行わせ,調査結果を分析して解釈させ,レポートにまとめさせたり,発表や討論をさせたりする。調査の際には,テーマに関する情報を適宜記録して整理させたり,図書室,博物館,情報通信ネットワークなどを活用して調べさせたりする。分析して解釈させる際には,科学的な根拠をもって推論し,
判断させるようにする。そうした学習の過程で,理科の学習で習得してきた知識や技能を活用し,論理的な思考力,判断力,表現力などを育成する。
指導に当たっては,設定したテーマに関する科学技術の利用の長所や短所を整理させ,同時には成立しにくい事柄について科学的な根拠に基づいて意思決定を行わせるような場面を意識的につくることが大切である。
(内容の取扱い)
内容の(1)から(7)までのうち,内容の(1)及び(2)は第1学年,内容の(3)及び(4)は第2学年,内容の(5)から(7)までは第3学年で取り扱うものとする。
学習の内容の順序に関する規定について,平成10年告示の学習指導要領では,各分野の内容の(1)から(7)までをこの順序で取り扱うように示していた。今回,これを改めて,内容の(1)及び(2)は第1学年,内容の(3)及び(4)は第2学年,内容の(5)から(7)までは第3学年で取り扱うよう,各学年ごとに標準的な内容を示すこととした。これ
は,地域の特性などを生かした学習ができるようにするためであり,中学校理科の第1分野と第2分野の内容の系統性に配慮し学習の全体を見通して指導計画を作成し指導を行うことが重要である。
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このとおりの指導が実現されれば,中学校における学習内容がとても充実したものであることがおわかりいただけると思う。
学習指導要領を読んだだけで教員がつとまるほど簡単なものではない。




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