結びつけること,しばりつけること
学習指導要領に示された内容は,現場の教師にとっては「しばり」になります。
もっと自分が教えたいことがある,という教師の場合,「あのような内容」だけしか教えられない,というのは,不満でたまらない・・・・どうしても,他のことを教えたい・・・・と,ストレスを抱え込んでいるかもしれません。
しかし,同年齢の子どもたちが,学習指導要領に示された,同じ内容を学んでいるということに,大きな意味があるとしたら,そちらを優先すべきでしょう。
教育は,「しばり」によって「むすび」をつくりだしている・・・・と考えると,その根っこには「宗教」と同じようなところがあるのかも・・・。
英語の「religion」の語源はラテン語の「religio」です。
「再び結びつける」という意味です。
「結びつける」という言葉は,「しばりつける」という意味にもとれる。
「結びつけられた」人々を外部から見たら,「しばりつけられる」ように思える・・・・それは宗教のことを考えれば,とてもわかりやすいことでしょう。
宗教の定義には,認知する能力といった合理主義の観点からのものと,依存感情といった情緒主義の観点からのものなどがあります。
こうした定義はどちらかが正しく,どちらかが誤っているというのではなく,「人間の心と行動」に関することですから,いろんな面があることは言うまでもないことでしょう。
教育実践を担っている学校の教師たちは,学者のように「どちらかの立場に立つ」ことを強く求められる存在ではありませんので,「いろんな立場がある」「いろんな考え方がある」ことを前提として,そういう人間社会のありようを子どもに気づかせていくことが仕事であるといってもよいかもしれません。
上司の命令に従わず,処分を受けることがわかっていたとしても,自分の個人としての思想・信条の自由を優先させる人間が教師の中にいても,それはそれで「そういう人間がいるということを教える」ことになっているのが,教育現場というところの特徴です。「公務員の資質を欠いた自分勝手な人間」と思われてしまうリスクをおかしてでも,自分のやりたいことをやる」・・・そういう行動をとることを生徒に認めてしまうというのは,組織の人間としては困ったものではありますね。「むすびつき」が壊れる。
子どもから,「組織の人間としてしばりつけられている」という印象を受けずに,「先生方は互いに教育に向けての強い信念で結びついている」と思われるのは,なかなか難しいことかもしれません。
荒れている学校の最大の問題は,「(上から)言われてしかたがないから,(好きでもないけど)仕事だから,こんなことをお前たちにしているんだ」というメッセージを子どもに伝えてしまう教師と,「どうでもいい。自分は自分のやりたいようにやる。話し合いはいらない」という教師がいることです。
教師教育の重要性が叫ばれていることが,こういう話でよくご理解いただけるでしょう・・・・?。
「しばり」と「むすび」。
あらためて,教師の仕事の楽しさを実感します。
子どもには,「むすぶつこうとする力」にあふれているからです。
その力を支えるのは,教師の,「むすびつこうとする力」です。
名が知れた教師の本を買って,猿まねを試みることではありません。
子どもがそういう教師の子ども向けの本を読んで,自分の授業に全く参加しない,そういう光景を想像してみてください。
どういうところで,人は,人と「むすびつかないか」。
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