開私公共の理念を教育にも
個人と社会の関係でWin-Loseの例として、戦前のような滅私奉公と、現代のような滅公奉私の状況をあげていますが、私の用語ではいずれも「私共(わたくしども)空間」の論理となります。
個人を他者関係のなかで活かしながら、人々の公共性を開いていくという意味で、金泰昌が最初に用いた「活私開公」という言葉を、公共哲学では使っています。私の用語では、これが「公共空間」の論理で、個人と社会がWin-Winの関係となります。「私」という文字も含めてその理念を伝えたければ、「開私公共」が近いでしょうか。
公共哲学では公私二元論にかわる「個人と社会」観を「政府の公/民(人々)の公共/私的領域」の相関関係としてとらえていますが、政府の私共空間、民(人々)の私共空間を要素に入れれば、現実の社会のモデルになり得ます。
教育の世界では、文部科学省という「公」、学校という「公共」、家庭という私的領域のほかに、課題のある一部の教育委員会や教師集団、家庭という「私共空間」が存在します。子どもたちも居心地のよい「私共空間」をつくり、そこにこもりがちです。
子どもの教育に最も影響力が強いのは、言うまでもなく教師集団です。その「私共空間」の空気が、如実に子どもに伝染している姿を学校訪問で多く目にしてきました。
子どもに自信と誇りをもたせようと、積極的にその姿を公開している学校がある一方、子どもの力を軽視し、外部に見られないように努力している学校(見せなければならないときは著しく不自然な姿になる)もあります。複数の学校に訪問する機会をもつ立場になってから、ここまで教師たちの影響力は強いものなのかと愕然としました。同時に、ここまで校長や副校長の影響力が小さいのかとがっかりもしました。課題の多い学校の管理職は、教師集団の「私共空間」に完全に取り込まれ、公共空間の空気を吸えず、その論理だけでなく自己の存在理由も喪失していました。
教育管理職の研修を受けながら、教育委員会で仕事をして、現在の管理職の課題もそれこそ無数にまとめあげてきましたが、それを教育失敗学であまり紹介していないのは、学校経営をはばむ教師の私共空間の強固さが尋常でないからです。
管理職と教師たちの関係を、歯車モデルで説明したことがありました。
完全に歯車が食い違っている学校。それも歯と歯の形が違う学校と、軸がずれている学校。
管理職の歯車が小さく、教師集団の歯車が以上に大きい学校。管理職側は一生懸命に回っているが、教師集団の回転数がゆっくりである。しかし、時間がたてばきちんと回転するからまだまし。
どちらかの歯車がすり減っている学校。空回りして動きがなくなっている。
しっかりと歯車がかみ合いながら、両者が逆回転し合い、動きが停滞している学校。そのうち2人しかいない管理職の歯車がすり減っていく。
保護者は、どのような学校に子どもを通わせたいと思うのでしょう。そもそも実態のわからない学校に、子どもを通わせることができますか。平成14年の「小(中)学校設置基準」は何を定めたのでしょう。
文科省、学校、教育委員会、家庭、子どもと、すべての歯車がかみ合うような教育の姿を求めて、教育を公共空間に開いていくのが、教師のコンピテンシー研究の役割です。
「実行力」や「調整・統合力」の欠如にばかり目を向けてきたのが「教育失敗学」ですが、何とか「創造力、変革力」に目を向ける「教育創造学」に発展させたいものです。
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